技術やマーケティングなど様々な職種で、日々新たなコンセプト(概念)が生まれ、それを実装するために企業は様々な仕組みを作る。人事も同様に、新しいコンセプトや仕組みの導入に取り組んでいる。しかし一般に広がっている認識(=都市伝説)を真に受けると、うまく運営できないことが少なくない。それは、もっともらしい都市伝説が、本来の狙いや組織の実態とはズレがあるからだ。

 そこで、本連載では、「人事の都市伝説」にスポットライトを当て、都市伝説を信じて安易にコンセプトや仕組みを導入すると、狙った効果が得られないばかりか、組織の混乱を招くという矛盾を明らかにしたい。そしてそうならないための処方箋も示していきたい。

 新しいコンセプトや仕組みを導入するに当たっては、企業の事業特性、組織文化、既存の制度との相性が影響を及ぼす。どこの会社でもうまくいく万能の形があるわけではない。本連載では、半導体製造装置メーカーで、人事課長兼女性活躍推進プロジェクトリーダーを務める佐々木さんの取り組みを通じて、人事の都市伝説を明らかにしていきたい。

 佐々木さんによる人事の都市伝説への挑戦の過程では、佐々木さんの新人時代の上司で、現在は流通チェーンで常務取締役兼管理本部長を務める野々村さんや、佐々木さんが参加する人事分野の交流会仲間も登場する。野々村常務は、電機メーカーや佐々木さんの勤務先を経て、現職の流通チェーンで人事部長を経験しており、佐々木さんのメンター(相談相手)を引き受けている。「日経ビジネス電子版」の前身、「日経ビジネスオンライン」で筆者がかつて連載した「野々村人事部長の歳時記」シリーズの主人公でもある。

(写真:123RF)
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低い日本のテレワーク実施率、「生産性下がる」の声も

 初回に取り上げるテーマは、2年以上続く新型コロナ感染防止のため、日本でも多くの会社が取り入れた「リモートワーク」。日本生産性本部の調査によると、2020年4月の日本全国対象の緊急事態宣言発令時に政府が在宅勤務を要請し、2020年5月には日本企業平均の在宅勤務率は3割超に達した。その後、2022年1月時点には全体の18.5%にとどまり、2020年年5月の調査開始以来最低の水準に下がった[注1]。世界全体では、日本の在宅勤務実施率は最低水準にある。  

 野村総合研究所が2020年7月に日本、中国、韓国、米国、英国、ドイツ、イタリア、スウェーデンの8カ国の生活者を対象に行った調査では、日本の「テレワーク実施率」は最低だった。同調査では、各国の「テレワーク実施率」は、各国政府による外出制限の強さと相関があると分析している[注2]

 加えて、日本の在宅勤務実施率は、企業規模や地域によってバラツキがある。前述の通り、日本企業全体の実施率は2~3割程度だが、日本経済新聞社が2021年10月に発表した調査結果では、大手企業に限ると8割以上[注3]。同年6月発表の約6割より増えている。地域間の違いもある。パーソル総合研究所の2022年2月の調査では、正社員のテレワーク実施率は、全国平均の29%に対して、東京都内では47%に上る[注4]

 在宅勤務を導入する日本企業の多くは、緊急事態宣言下の政府の要請で仕方なく導入した面がありながら、在宅勤務のメリットとして、社員の仕事の生産性向上を見込んでいる。厚生労働省が2020年8~10月に実施した調査によると、企業の視点からみた在宅勤務の効果(複数回答)のトップ3は、「従業員の通勤負担の軽減」(54.2%)、「自然災害・感染症流行時における事業継続性の確保」(52.5%)、「定常的業務の効率・生産性の向上」(18.6%)で、トップ3のうち2つは、通勤時も含めた労働生産性向上に関わる事項だ[注5]

 一方で、日本企業の社員たちは、在宅勤務の生産性向上効果を懐疑的に見ているようだ。前述の野村総合研究所の調査では、在宅勤務により「仕事の生産性が落ちた」と回答した比率は、日本では回答者全体の48%に上り、調査対象8カ国中で最多だ。

 日本企業の多くで期待されるように、通勤時間の短縮、働く場所・時間の柔軟性の向上などから、在宅勤務を取り入れると、仕事の生産性は本当に高まるのだろうか。佐々木人事課長の取り組みを通じて、「リモートワーク」の都市伝説を解き明かしたい。