コロナ禍に急速に普及したオンライン研修。受講者にとっては手軽に参加でき、運営側もコストを抑えられるメリットがある。一方で受講者の集中力が持続しにくく、システムトラブルが起こりやすいなどの課題もある。

(写真:123RF)
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 人事関連の仕組みや概念の「都市伝説」の真偽を考える本連載、今回のテーマは「オンライン研修」。新型コロナ感染のクラスター(集団感染)の発生を防ぐため、多くの日本企業がオンライン研修を取り入れた。パーソル総合研究所の調査(2021年7月)によると、回答企業全体の75%が、「この1年間でオンライン研修を増やした」という。  

新入社員研修以外はオンライン研修が主流

 

 オンライン研修の内容は多岐にわたる。前述のパーソル総合研究所の調査では、2020年の研修テーマ別にオンライン実施の割合を調べたところ、「ロジカルシンキング」(60.5%)、「技術・開発」(58.9%)、「語学」(57.3%)、「企画・マーケティング」(57%)などが上位に並んでいる。調査対象の20テーマの中で、対面の比率がオンラインを上回ったのは新入社員研修のみ。それ以外の研修すべてでオンラインが対面より多く実施された。

 オンライン研修は、受講の手軽さをメリットに感じる人が多いようだ。受講者が研修会場まで移動する必要がなく、パソコンさえあればどこからでも受講できる。ラフな格好で受講する人も多い。パーソル総合研究所の調査でも、受講者にとってオンライン研修のメリットに挙がった項目のトップ2は、時間の削減(31.1%)、スケジュール調整のしやすさ(27.8%)だ。

 受講者の受講意欲でも、オンライン研修に軍配が上がる。2021年6月にリクルートマネジメントソリューションズが実施した調査では、「オンライン研修」や「動画学習」を、「利用したい」「どちらかというと利用したい」とポジティブにとらえた回答が、「利用したくない」「どちらかというと利用したくない」とネガティブにとらえた回答を上回った。一方、対面研修ではその比率が逆転し、ネガティブにとらえる回答者の比率が上回っている。

 導入当初はオンライン研修の効果に懐疑的だった多くの日本企業も、今後さらに研修のオンライン化を進めていくようだ。前述のパーソル総合研究所の調査で、今後研修のオンライン化を指向する企業は、研修の成果が上がっていると認識している企業では9割に上り、成果が思わしくないととらえている企業でも、6割以上が前向きだ。

 運営側にとってもオンライン研修のメリットは大きい。特にコスト面では、研修受講者の交通費や会場費を抑える効果が期待できる。対面式に比べて成果の面で多少劣っても、オンライン化に前向きな企業が半数以上に上ることも、コスト削減効果を考慮すると納得がいく。  

事前準備や運営の手間、“内職”で集中せず

 

 本連載の舞台である半導体用装置メーカー、TSCMでも、2020年から新入社員研修以外は、全面的にオンライン研修に切り替えた。ロールプレイなど受講者同士の対面のやり取りが望ましい研修は、コロナ感染状況が収まるまでの期間、中止または延期している。受講者が各自のパソコンから手軽に受講でき、特に研修を受講するために本社に出張していた社員にとって、受講のハードルがかなり下がったようだ。

 オンライン研修が主体になった2022年夏、人事課長の佐々木さんは来期の研修計画を立てるため、本社人事部の研修部門とのミーティングを持った。「研修の受講率が上がった」といった明るい話があった一方、研修担当の岡田さんは「オンライン化によって事前の準備や当日の運営の負担がかなり重くなっている」と打ち明けた。

 長時間パソコンの画面にくぎ付けになるオンライン研修では、対面研修と比べ、受講者の集中力が持続しにくい。そのため、研修内容を減らし、休憩時間を増やす必要がある。その結果、研修担当者は社内外の講師と調整し、研修内容や時間配分を見直している。

 システム面の課題もある。1時間前後で終わるオンライン会議とは異なり、オンライン研修は数時間続くため、途中で通信が切れる参加者も少なくない。研修運営担当者は、受講者の参加状況を画面上で常にチェックし、途中で離脱した受講者に戻ってもらう手配もしなくてはならない。特に、社内ネットワークへのアクセスが集中する朝一や昼休み明けには、折角つながった受講者たちの通信も切れやすくなる。「他社の例ですが、社外からアクセスしていた社外講師の通信が切れて、それっきり連絡が取れなくなったため、研修を途中で中止したこともあるそうです。うちは幸いにして今のところありませんが」。岡田さんは眉をくもらせた。

 研修受講者の中には、オンライン会議への参加経験が少なく、カメラやマイクといったツールに不慣れな人もいる。そうした人にも、質問用のチャットの使い方、発表用の画面共有の仕方、講師や他の参加者に対する反応を伝えるボタンの使い方といったさまざまな操作方法を、覚えてもらわなければならない。だが、普段からオンライン会議に参加する機会が少ない人にとっては、研修だけのためにツールの使い方を習得してもらうのは難しいのが実態だ。

 「手軽に受講できるメリットがある反面、受け身になったり、メールチェックなど“内職”をしたりする傾向もあるんです」と岡田さんが打ち明ける。「確かに家にいれば内職し放題よねえ」と妙に感心する佐々木さん。対面研修では自然に生まれる受講者同士の交流や話し合いも、オンラインでは不足しがち。グループ討議で発言するタイミングを計るのが難しかったり、通信状況が不安定になりグループ討議中に離脱する参加者が出たりといった、オンライン研修特有のコミュニケーションの難しさがある。前述のパーソル総合研究所の調査でも、オンライン研修のデメリットとして、「受け身になりやすかった」(21%)、「受講者同士の交流の機会が不足していた」(19.7%)、「受講者同士で関係性を構築できなかった」(17.4%)などが指摘されている。