政府が推進する働き方改革の一つが「副業・兼業」。副業を容認する企業、副業を実施する社員ともに「収入と経験の双方を増やす」ことを狙うが、果たして二兎を追えるのか。本業の軽視、過労・過重労働、情報・ノウハウの漏洩など副業のリスクも踏まえ、副業にどう取り組むべきかを考える。

(写真:123RF)
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 本連載は、人事関連の仕組みや概念の「都市伝説」の真偽を、半導体製造装置メーカーで人事課長兼女性活躍推進プロジェクトリーダーを務める架空の女性、佐々木さんの取り組みを通じて、取り上げている。今回のテーマは「副業」。本稿では、「副業」は、正社員としての本業と平行して他の仕事をする働き方を指し、フリーランスや自営業者として複数の仕事を掛け持ちする働き方を「兼業」と呼ぶ。

副業容認企業は5割を超える、最大の理由は「収入補填」

 政府は、成長分野への人材移動を促すことで、日本産業全体の労働生産性を上げることを目指し、本業以外での業務経験やスキル習得が期待できる副業を推奨する方向に舵を切る。2020年9月に、それまで本業の勤務先に求めていた労働時間管理を、働き手が本業と副業の勤務先にそれぞれ申告するルールに改めた。

 パーソル総合研究所が2021年8月に実施した「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査」では、2018年の前回調査に比べて、副業を容認する日本企業の割合は3.8%増えた。富士通、キリングループ、IHI、三井住友海上火災保険、ヤフーといった日本の大企業も、副業の積極活用に乗り出している。条件付きも含めて回答企業全体の55%が副業を容認している。現在副業している社員の割合は、回答者全体の9.3%にとどまるが、現在は行っていないが副業の意向がある正社員は、回答者全体の4割に達した。

 新型コロナ感染の広がりで、多くの企業が事業活動の停滞と業績悪化に見舞われる中、副業を容認する理由のトップは「従業員の収入補填のため」が34.3%で最多となった。前述のパーソル総合研究所の調査では、コロナ感染拡大後に副業を始めた社員は、副業者全体の25%に上る。ただし収入面のメリットだけでなく、「社員の経験を増やす」という狙いもあるようだ。企業側は容認理由として「従業員のモチベーションの向上のため」(20.3%)、「従業員の視野拡大・自主性向上のため」(18.4%)などの理由を挙げ、社員側も副業の理由として「自分が活躍できる場を広げたいから」(50%)、「本業では得ることが出来ない新しい知見やスキル、経験を得たいから」(48.9%)、「副業で好きなことをやりたいから」(48.2%)などを挙げている。

 果たして、副業は、収入増と経験の広がりの両面で、働き手と企業の双方にとってメリットがあるのだろうか。  

副業者は低収入の若手社員と高収入のエリート社員に二極化

 

 この問いに答える前に、もう少し前述のパーソル総合研究所の調査結果を見てみよう。副業者のバックグラウンドを見ると、業種別の副業者の比率(カッコ内の数値)は、以前から兼業や出稼ぎが多かった「農林水産業、鉱業」(23.9%)に次いで、「生活関連サービス、娯楽」(13.9%)、「不動産賃貸、物品賃貸」(12.4%)、「学術研究、専門・技術サービス」(11.7%)、「宿泊、飲食サービス」(11%)、といった、新型コロナ感染拡大で勤務先の事業がダメージを受けた業種で高くなっている。性・年代別では、20代男性の副業者の割合が最大(13.9%)で、男女ともに、年齢が若くなるほど副業者の比率は上がる。副業する動機のトップ3は、「趣味に充てる資金の獲得」(70.4%)、「現業の将来収入への不安」(61.2%)、「本業での生活資金不足」(59.8%)と、すべて収入がらみだ。

 現在副業していないが副業の意向がある人の割合は、本業の年収別では、低収入層で高くなる傾向だ。副業の意向者の半数以上(52%)は、新型コロナ感染拡大以後に本業の年収が下がっている。副業者の典型像は、「そもそも本業からの収入が低く、新型コロナ感染拡大に伴い本業の勤務先からの収入がさらに減った男性若手社員」といえそうだ。

 一方で、職位別副業者の割合は部長職以上、本業の年収別では年収2千万円以上の高収入層が最も多い。本業の職種別では、「コンサルタント」(29.8%)、「ウェブ系専門職」(20.1%)、「人事・教育」(19.9%)、「経営・経営企画」(19%)といったホワイトカラーの専門職で、副業者が占める割合が高い。こうした、いわゆる「エリート社員」は、就業者全体に占める人数比率は小さいが、副業比率は高いようだ。  

本業の軽視、過労・過重労働、情報・ノウハウの漏洩が発生

 一方で、副業に否定的な企業も少なくない。2021年に内閣府が実施した「「第4回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」 https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result4_covid.pdfでは、企業規模が多くなるほど、副業を禁止する比率が増える。従業員数が1,000人以上の大企業では、副業を禁止する企業の割合は4割を超える(43.3%)が、30人未満の小企業では2割に満たない(15.8%)。

 日本企業が懸念する本業の軽視、過労・過重労働、情報・ノウハウの漏洩は、副業で実際に起こっているのだろうか。前述のパーソル総合研究所の調査では「本業の軽視」(15%)、「過重労働による体調不良」(16.1%)、「本業への支障(14.1%)」、「情報持ち出し」(11.9%)、「競業による本業への不利益発生」(11.3%)が挙げられている。副業者の1割以上で、本業の企業側が懸念するリスクが現実化しているようだ。