「人材版伊藤レポート」で言及されたCHRO(最高人事責任者)の役割は重みを増しつつある。文字通り、経営と一体で人材戦略を実行していくCHROはどう在るべきか。第一線でその責務を担うCHROに聞いた。

(写真:123RF)
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人事プロフェッショナルだけではCHROは務まらない

 22年5月、経済産業省から「人材版伊藤レポート2.0」(以下レポート2.0)が公表された。すでに目を通している人も多いだろう。20年9月の「人材版伊藤レポート」(以下レポート1.0)と比べ、レポート2.0の冒頭で大きく掲げられたのがCHROの設置とその重要性だ。

 レポート1.0は人材をコストではなく企業価値を高める投資対象として「人的資本」として捉える重要性を説き、CHROの役割について「経営陣の一員として、経営戦略の実現につながる人材戦略の策定・実行に重要な役割を果たす存在となりうる」と示唆した。今回のレポート2.0ではさらに踏み込み「CHROとは、経営陣の一員として人材戦略の策定と実行を担う責任者であり、社員・投資家を含むステークホルダーとの対話を主導する人材」だと明示する。

 昨今CHROを新しく設置する会社も増えてきたが、従来の人事本部長といった肩書をCHROと言い換えただけでは意味がない。それでは、この責務を担うのに必要なスキルや経験とは何だろうか。

 「CHROは戦略実現の中で財務が分かっていることが必須。財務をきちんと理解していないと人材版伊藤レポートの神髄が分からない」と断言するのはカゴメ常務執行役員CHOの有沢正人氏だ。豊田通商経営幹部CHROの濱瀬牧子氏も「CHROは人事のプロフェッショナルというだけではなく、経営を担う一人として、戦略や数字を理解しているもの」と同意する。

 カゴメ社内では「人件費」という言葉は使わないという。人に関することはすべてインベストメント(投資)と捉えて評価報酬制度を設計、配置登用や能力開発に取り組む。こうした施策は人材開発委員会が起案し、報酬・指名諮問委員会が取締役会に諮問・答申する体制をとっている。

「良質な問いを立てる」社員を支援し、育成する

 ライフネット生命保険取締役副社長兼CHROを経て、現在、カインズ執行役員CHROを務める西田政之氏は、CHROの役割は3つあると指摘する。「1つ目が経営戦略と人事戦略のアラインメント、2つ目が個人の目標と会社の目標のベクトル合わせ、3つ目は社員が良質な問いを立てられるような問いかけをして自律を促すこと」だ。

 上司の指示通りに仕事していれば済む、という働き方は通用しなくなった。デジタル化、脱炭素、新型コロナ感染症――容赦ない世界の潮流がビジネスの変革を迫っている。ビジネスモデルを変革し会社のステージを上げていくためには、組織で働く人が主体的に仕事とキャリアを選び、能力を伸ばしていく組織作りが必要だ。

 このような社員の行動変容を促し、組織改革を図っていくのは一朝一夕では難しい。レポート2.0の事務局を務めた経済産業省産業人材課長の島津裕紀氏も人的資本の底上げには何年もかかると同意する。「個人の思いと企業のパーパスがあっているかを確認するには良質な問いが必要」とも話す。良質な問いを考え続けること、すなわち大きな変化に直面しても学び続けられる人的資本が増えていくことが企業価値の向上につながる。CHROがこうした人材戦略を自社ならではのストーリーとして語る時が来ている。

日経BP「Human Capital Project」がスタート

日経BPは全社横断による「Human Capital Project」を立ち上げました。その第一弾として日経ビジネスLIVEにて「人的資本を考えるウェビナー 人と組織がともに成長するイノベーティブな社会のために」を企画し、「経営」「組織」「人財」を考えるステアリングコミッティ(運営委員会)を組織。「経営」のステアリングコミッティ座長をカゴメ常務執行役員CHOの有沢正人氏が務め、カインズ執行役員CHRO(最高人事責任者)の西田政之氏、経済産業省産業人材課長・未来人材室長・島津裕紀氏、デロイトトーマツコンサルティング執行役員パートナー・古澤哲也氏、豊田通商経営幹部CHRO・濱瀬牧子氏が参加。このパネルディスカッションでは会社を変革するパーパスの活用、CHOが果たすべき役割について議論します。