日本企業は長らくOJTによって人材を育ててきた。しかし、業界再編や事業構造の転換が加速する近年、仕事そのものを教える手法に限界が見えてきた。そこで新規事業に必要なスキルを自律的に学び、成長しようとする人材を「支援する」マネジャーの役割が重視されている。

(写真:RF123)
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 マネジャーは部下に仕事を任せる。部下は成功体験を積み上げていき、トラブルに対応する技も会得する。任せる仕事を徐々に大きくすることで部下はさらに成長していく――。こうしたOJTによる育成は既存事業を拡大する時代に最も効果的だった。

 また、OJTが有効だったのはマネジャーと部下のトップダウンの関係性が背景にあるが、リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、この10年間で新卒入社社員の側に変化が起きているという。2011年と2021年のアンケート結果を比較すると、今の新卒入社社員が上司に求めるのは「周囲を引っ張るリーダシップ」ではなく「よい仕事をほめること」や「相手の意見や考え方に耳を傾けること」という要素の選択率が上がっている。

 こうした傾向を受けて、リモートワークで孤独になりがちな部下を支援する1on1やオンライン雑談、部下の話を傾聴するコミュニケーションなどを推奨する企業も多い。しかし、実は「支援する」意義が腹落ちできていないマネジャーは多いのではないか。

「支援を受けるのは恥ずかしい」

 日本ラグビー代表チームのコーチを務めたチームボックス代表取締役CEOの中竹竜二氏は、「独り立ち」や「一人前」という言葉が重要視されてきたが故に「日本のカルチャーとして『支援』をしたり、受けたりするのが恥ずかしいという概念がある」と指摘する。確かに、OJTで育て上げた先は部下を独り立ちさせるのが目標だった。独り立ちした人材は立派にやっていけるので、もうマネジャーが手とり足とり教える必要はない。

 しかもOJTで育てた部下が新規事業を立ち上げたり、高い業績を上げたりしたとしても、それによってマネジャーの評価や報酬が上がることはなかった。終身雇用かつ年功評価の日本企業では、上司たるマネジャーの職能給はほぼ固定されてきたからだ。例えば、人事部門でない限り、どのような人材を育てたかより売り上げをどれだけ拡大したかのほうが課長から部長へ出世する早道だっただろう。

 部下を支援するにトップダウンではなくむしろフラットな関係性がないと難しい。例えば急速なデジタル化を背景に、経験豊富なマネジャーより新卒入社社員のほうがデジタル活用に長じているといったケースもある。マネジャー自身も「支援してほしい」とメンバーに言える関係性を作っていくにはどうしたらよいか。

成功事例を自社ならではのストーリーにする

 マネジャーのマインドセットやスキルセットを転換していく取り組みも始まっている。リコーでは「マネジメントカレッジ」という独自の研修プログラムを立ち上げた。2年間かけて全社500人のマネジャーに心理的安全性の確保、部下の考えの引き出し方など支援の在り方を学ぶカリキュラムを実施する。また、日揮ホールディングスのグローバル事業部門では、部門長とは別に部員のキャリア管理を担うキャリア・デベロップメント・マネジャーを新設した。

 さらに人づくりは職場づくりでもあると捉え、デンソーでは職場の状態を11分類で表し「いきいき職場」や「他力本願職場」などパターン化することで具体的な改善策を考える切り口を提供する。同様に、楽天グループも会社のバリューに基づいてパフォーマンスを出した「楽天賞」を受賞した社員にヒアリング。成功事例を30のパターンに整理し、これを入社3年目までの社員教育の教材に使っているという。

 マネジャーの「支援マインド」と「支援スキル」の向上はどの企業でも途上にある。コーチの人材バンクをつくりその育成に取り組む中竹氏は、コーチ一人ひとりのカルテに「成果をあげたことより、チームの中でこんな役割を果たした、チームが負けても若手の力を伸ばした」といった項目を記載することが重要だと指摘する。同様に「支援できる」マネジャーを増やしていくためには、支援に必要なスキルと経験が評価される仕組みが必要ではないか。

日経BP「Human Capital Project」がスタート

日経BPは全社横断による「Human Capital Project」を立ち上げました。その第一弾として6月22日~24日に人的資本をテーマにしたウェビナー「人的資本を考えるウェビナー 人と組織がともに成長するイノベーティブな社会のために」を開催。「経営」「組織」「人財」の3つのテーマで著名CHROや有識者による講演やパネルディスカッションをお届けします。

「人財」のパネルディスカッションでは、楽天グループCWOの小林 正忠氏を座長に、プロノバ代表取締役社長の岡島悦子氏、デンソー執行幹部の原雄介氏、チームボックス代表取締役CEOの中竹竜二氏が改革を起こし企業価値を上げる「人づくり」について議論します。