賃金ダウンの原因とみなされがちなデフレ。日本がデフレで欧米がインフレでも、為替による調整が行われれば、相対的に日本の賃金は下がらないはず。それを意図的に変えたのがあの政策だった。

(写真:123RF)
(写真:123RF)

 安い日本の主因として「デフレ」を上げる人がことのほか多い。日本では長引くデフレ下で給与が上がらず、その結果、インフレ率+αで賃上げを続ける諸外国との差が広がっていたという説明がなされる。この話は一見もっともらしく聞こえるのだが、細かく見ていくと、これは「国際的に見て賃金が下がった理由」としては正しくない。

賃金の減少率よりデフレ率が大きければ実質賃上げになる

 デフレを簡単に言えば、物価が値下がりし、賃金の価値が上がる現象を指す。

 今までバナナ1本が100円だったのが、80円に値下がりした。このような状態がデフレだ。分かりやすい例として、1時間お母さんのお手伝いをしてお小遣い100円もらっていた子供がいたとしよう。今までは1時間働いてバナナを1本買うと、お駄賃は消えてしまった。ところが、デフレが進むと、バナナを1本買っても20円おつりがもらえる。この20円は貯金もできるし、駄菓子を買うこともできる。実質、「お小遣いが値上げ」されたのと同じ状態になる。

 仮に、お母さんが、「バナナも駄菓子も値下げされているんだから、お駄賃も90円にする」と決めたとしよう。それでも、バナナを買えば10円余るので、お小遣いはまだ実質賃上げ状態だ。つまり、デフレ率よりも賃下げの率が低ければであれば、「実質賃上げ」となる。

 整理すれば、賃金が上がらない、もしくは下がったとしても、デフレ率がそれより大きければ、実質賃上げに相当し、生活は豊かになっていく。これが一つ目のポイントで、日本はこんな状況が長らく続いた。賃金は上がらない、もしくは下がる。ただし、物価はそれ以上に下がる。それを示したのが、下の図となる。

[画像のクリックで拡大表示]

 2000年以降はおおむね、累積賃金が累積物価を上回る状態が続き、生活は豊かになっているのが分かるだろう。2014年と2018~2019年に両者が接近しているが、これは消費税アップ(これも物価指数に反映される)によるものだ。そうした「公的負担の増加」を含めても、生活は豊かになっているといえる。

為替が貨幣価値を調整

 一方、欧米諸国はこの逆で「賃金は上がるが、同様に物価も上がる」ために生活は思うほどよくなってはいない。これら4カ国は物価が3~5割も上がっているからだ。

[画像のクリックで拡大表示]

 先ほどの例でいえば、1本1ドルだったバナナが、1ドル50セントに値上がりした状態であれば、お小遣いが1ドルから1ドル20セントに上がったとしても、決して得にはなっていないということだ。

 ただ一見すると、日本の子供はお小遣いが90円に下がり、アメリカの子供は1ドル20セントに上がっていたら、損しているように感じてしまうだろう。実社会であれば、こうした不条理な状態を調整するよい仕組みがある。それが為替だ。

 仮に、各国の生産性が変わらず、金融政策なども不関与という状態であれば、日本はデフレ(=貨幣価値が上がる)で、アメリカがインフレ(=貨幣価値が下がる)であれば、貨幣価値が強くなった円が強くなり、ドルは逆に弱くなる。つまり、円高・ドル安となり、これで調整されるために、通貨換算した時の賃金比較は「元の状態のまま」だ。

[画像のクリックで拡大表示]

 お分かりいただけただろうか。

 もし、他国がインフレで、日本だけデフレであれば、当然、為替では円高となり、通貨換算後の賃金は、低下することはない。つまり、国際社会で日本の賃金が下がった主因をデフレとみなすのは、誤りと言えるだろう。