デフレ脱却を目指して決行されたアベノミクス。ここでなされた金融緩和、とりわけ「量的緩和」とはいったいどのようなものだったのか。高校で学んだ理論が通用しない、「異次元の量的緩和」のメカニズムを分かりやすく解説。

(写真:123RF)
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 前回までで「安い日本」の最初の理由を明らかにした。

 それは、「本来ならデフレに伴って起きるはずの円高が、金融緩和政策により、真逆の円安となったこと」にある。つまり、デフレ脱却を目指したアベノミクスが、安い日本の第一因といえるだろう。

 ではなぜ、デフレは良くないといわれ、これを脱却することが望まれたのか。

デフレは交易面では中立、財務面ではマイナス効果

 ここまでの説明で分かる通り、「デフレは貨幣価値の上昇にほかならないため、それにより円高となる」ことが、一見、産業界にとって良くない現象と思われがちだ。輸出製品は外貨建てで値上がりし、人件費も高騰するといわれる。

 ところが、この話はよく考えると正しくはない。「デフレで外貨換算すると価格上昇が起きる」のは確かだか、その分、「デフレで国内価格は上がらない(もしくは下がる)」ので相殺されている。逆にインフレなら、国内価格は上昇するが、貨幣価値が下がるので外貨換算では価格は上がらない。そう、デフレ・インフレともに、為替調整が起きるから、国際価格的には両者とも「中立」を維持することになる。アベノミクスは、こんな中立状態にあった中で「円安」を誘導したため、日本産業に一時の利益をもたらしたといえるだろう。

 デフレは、金融政策が不変であれば、交易面では中立を、財務面では少なからぬマイナスをもたらす。たとえば、海外で利益が10ドル上がった場合、日本円に換算すると、1ドル=120円なら1200円利益となるものが、同80円なら800円の利益となる。グローバルに連結決算した場合、外貨的には同じ収益であっても、円換算では減益となってしまう。国内での決算はすべて円ベースのため、見た目はマイナス決算になるのだ。これが一つ目の問題。

 デフレは、企業の資産と負債の割合にも、悪影響を及ぼす。デフレにより企業が有する資産は価値を下げる。洗い替えにより、資産価値は毎年目減りし、一方で、過去に借りた負債の額は変わらない。このことにより、バランスシートを毀損し、財務状況を悪化させる。当然、企業は事業拡大や新規投資などに及び腰となる。

 硬直性の高い人件費関連なども、デフレよりインフレの方が調整しやすいといえる。たとえば、業績の良くない会社が、「総人件費率を下げる」場合、デフレであれば、賃下げをしなければそれはなしえない。一方、インフレ下であれば、給与をステイするか、もしくはアップしたとしてもインフレよりも低いレートにとどめれば、総人件費率は下げられる。だから、経営にとっては、インフレの方がありがたいだろう。

 これは年金額の調整でも同様のことがいえる。「下げるのは抵抗が強いが、上げないことは比較的楽」だからだ。インフレでは見かけ上の税収も社会保険料も増える。その中で、年金額を据え置けば、財政は好転する。デフレではこれが真逆となり、苦しい。

 こうした少なくない事情から、社会的には適度なインフレが望ましいと言われる。だから、アベノミクスは決行されることになり、当初、産業界も国民もこの施策を喜んだといえるだろう。