量的緩和の是非を巡る議論もあったが

 そこで、ここから先へ踏む込むために、「期待インフレ率の押し上げ」という策に出た。ここも少し詳しく書いておこう。

 たとえば、今、一年で利子が10%もつくとすれば、思わず貯金もしたくなるだろう。ただ一方で、1年で物価が10%上がるのであれば、1年後に、トータルで買えるものの量は変わらない。だから「貯蓄するか否か」は、見た目の金利だけではなく、インフレ率との関係で見るべきだ。この見た目の金利(名目金利)とインフレ率との差を実質金利という。実質金利が大きければ大きいほど、貯金をするのが得となるし、小さいもしくはマイナスになるのであれば、お金は取っておかず、今すぐ使い切った方がよい。

 現在の日本だと金利自体はもう下げられないくらいに低い。そこで、インフレ率、とりわけ、将来のインフレ予想(期待インフレ率)を上げるような策を打つ。そうすれば、将来においては、金利とインフレ率が逆転すると思うようになるので、皆、早くお金を使おうと考えるようになり、その結果、消費・投資意欲が高まるため、現時点でのインフレ率も上昇していく。これがデフレ脱却の流れだ。

 金融緩和が進み、国債が超低金利となれば、その他の利回りの良い投資先、不動産や証券、外貨などに金融機関の資金は振り替えられるようになるだろう。その結果は、円安、資産高を生む。資産高になれば、ビルや住宅建設・販売も勢いを増し、円安は海外からの投資を引き込む。資産価格上昇は企業のバランスシートをも改善し、また、資産値上がり益を得た人たちの消費を高める。こうした何重もの経路により、予想インフレ率は上がり、結果、実質金利は低下することになる。

 ただし、こうした波及に対して、疑問をさしはさむ声も聞こえてくる。

 たとえば、国債を日銀が買い入れれば、金融機関にはその対価として売上金が手に入る。各金融機関はそれを、日銀にある当座預金口座に積み立てる。ただ、それは、「積み立てられただけでどこにもお金は動かないだろうから、なんの変化も起こらない」というのだ。

 対して、量的緩和推進派は以下のように再反論する。

 「確かに金融機関は日銀に、膨大な量の当座預金を保有するようになる。その量があれば、各銀行は資金に困らなくなるため、銀行間の資金融通をする短期市場の金利は低く抑えられる。そして、その膨大な量の裏打ちで、当分の間、短期金利は上がらないことが市場で合意を得る。こうした状況が、変動制の激しい短期市場での借り入れに安心感を持たせる」。

 アベノミクス開始以前に、すでにこんな甲論乙駁がなされていたが、2013年の黒田バズーカ(同年3月の巨大な緩和策)が発表された後しばらくは、反対論は鳴りを潜めた。為替は大幅に円安に振れ、株価は急騰。世間の雰囲気が一変したからだ。

 そして、それから幾星霜となる…・・・。