米国でインフレが加速し、円が下落を続けても、日銀が堅持し続ける「量的緩和」。緩やかなインフレを続けて経済を安定成長させるため、安倍政権で始動したが、9年たっても達成できない。様々な関係者の思惑が行く手を阻んでいるからだ。

(写真:123RF)
(写真:123RF)

 2012末に始まったアベノミクスでは、緩慢なインフレを継続させることにより、経済の安定成長を図る「リフレ派」が中核的な役割を果たしたと言われる。政権発足の翌年3月に号砲をぶち上げた日本銀行の黒田(東彦総裁)緩和により、日本は本格的な量的緩和期に入った。それから9年強。果たしてリフレ派の主張はその通りになったのか。今回はそれを見ていこう。

1. 貨幣数量説で唱えられるような、単純なインフレは起きていない(リフレ派は必ずしもこの説を支持していたわけではない)
2. 為替は大幅な円安に振れた
3. 不動産、株などの資産価格は大幅に上がった
4. 輸出に関しては、金額的に増加しているが、それは為替レートの変更で起きただけであり、数量に関しては増えていない
5. 賃金の押し上げに関しては、それ以前よりも若干の増加にとどまる
6. 肝心の物価だが、黒田緩和前よりは上昇率があがり、マイナスになることは少なくなった。ただし、当初企図していた「安定的に2%上昇する」状態には(消費税アップなどの要因を除くと)至っていない

 総じていえば、この施策を採ったことにより、それ以前のデフレ状態からは脱して、景況感は明らかに変わったとはいえそうだが、期待インフレ率の上昇→消費・投資の高まりという良い資金循環にまでは至っていない。

 なぜ、目論見通りにことは進まなかったのか。

 以下、言われていることをざっとおさらいしておこう(この連載は経済論議を旨とするものではないので、「リフレ派の主張が理論的に正しかったのか、間違っていたのか」には踏み込まない)。

増税で消費停滞、輸出も尻すぼみに

 アベノミクス開始早々の2014年4月に実施された消費税アップ(5%→8%)が、「せっかく緩くなり始めた消費者の財布の紐を、再び閉めさせた」とリフレ派は嘆く。確かに、消費者物価指数(CPI)を見ると消費増税後の腰折れがはっきりと見て取れる。「この時、消費税アップさえしなければ、当初の想定通り2年で2%に達していた」というリフレ派からの惜閔(せきびん)の声は多い。

出所:総務省統計局
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出所:総務省統計局
一方、アンチリフレ派からは、「対前年でみた増税の影響は1年で消える。その後に再上昇が起きなかったのは、そもそもの物価上昇基調が弱かったからだ」という反論がなされている。

 続いて、円安は起きたのに、輸出数量が増加しなかった状況を振り返っておこう。

 為替変動が起きてから、実質的に輸出数量が増えるまでは、意思決定や設備増強、物流時間などがあるため、タイムラグが起きる。そのため、円安定着後、しばらくしてから輸出は増加するといわれる。このことを、「Jカーブ効果」と呼び、リフレ派の高橋洋一氏(嘉悦大学ビジネス創造学部教授)などが唱えていた。が、実際には輸出増は初年度が一番大きく、その後は勢いを減じていった。つまり、Jカーブは起きていない。その理由を探ると、リフレ的な「生産と消費の拡大サイクル」が起きなかった事情が垣間見える。

出所:財務省貿易統計
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出所:財務省貿易統計