長く賃上げが抑えられてきたため、日本人の給与は国際的に見ても安く、韓国を大きく下回る。ただしこのデータは、非正規雇用者の給与の安さによって下振れしている。非正規雇用者の待遇の悪さは問題だが、実は「待遇が悪くても生活には困らない」人が大半を占めている。

(写真:RF123)
(写真:RF123)

 またまた、「安い日本の『人』」を示唆するショッキングな記事を引用することにしよう。 以下は、2021年8月2日に配信されたダイヤモンドオンラインで注目を集め、他メディアにも多々引用された考察だ。

 

「日本人は韓国人より給料が38万円も安い!低賃金から抜け出せない残念な理由(中略)日本の平均賃金は韓国に比べて、3445ドル(約37万9000円)低い。月収ベースで見れば3万1600円ほど低いという計算になる」

 ちなみに、これは素データではなく、購買力平価で調整した数値だという。出所はOECDだ。ただ、情報に詳しい人は、以下、二つの疑問を抱くのではないか。

1. 欧米の物価はとにかく高い。素賃金ならともかく購買力(物価を考慮した実質的な賃金)では、日本はけっこう上になるのではないか
2. 韓国と日本の一人当たりGDPを比較すると、このデータのもとになった2020年では、日本が40,049ドルに対し、韓国は31,638ドルであり、日本の方が3割近くも多い。購買力を勘案しても、これほどまでに韓国の賃金が高くなるだろうか

 私はこのデータを見て、鼻白む思いをしたものだ。OECDは日本の雇用構造を深く見ずに皮相的なレポートをよく発表する。それがショッキングかつ分かりやすいから質(たち)が悪いのだ。 日本の政治家、マスコミもOECD同様に賃金データの見方を誤っている人が多いので、以下、遠回りして書いておこう。

生産年齢人口が激減しても労働人口は減っていない

 日本が人口減少を始めたのは、2009年からだ。ただ、これは総人口の話であり、主労働者たる15~65歳の人口(=生産年齢人口)は、一足早く、1996年の8726万人をピークに減少を始めた。以来、OECD調査のあった2020年には7470万人と1256万人も減少をしている。減少率は14%と、恐ろしいほどのペースだ。

出所:総務省統計局「労働力調査」を基に著者作成
[画像のクリックで拡大表示]
出所:総務省統計局「労働力調査」を基に著者作成

 では、この間に、働く人の数(労働人口)はどのくらい減ったか。昨今の慢性的に人で不足感からすると、「やはり1割程度は減っているのではないか」と感じる人が多いだろう。

ところが、労働人口は増えている。1996年に6286万人だったものが、2020年には6715万人と429万人像。実に7%近くも増加しているのだ。これは驚きの事実ではないか!

出所:総務省統計局「労働力調査」を基に著者作成
[画像のクリックで拡大表示]
出所:総務省統計局「労働力調査」を基に著者作成

 人口が激減する中で、労働者は増える。どうしてこのような離れ業ができたのか?

 種明かしすると、主婦・高齢者・学生など、今まで働いていなかった人たちが多数、社会参加したことがその主因となっている。当然、家事や学業や体力面などを考慮すれば、正社員でフルタイム労働することは厳しい。だから彼・彼女らの多くは非正規かつパートタイマーとなった。その状況を示したのが下記図となる。母数が少ない学生はともあれ、主婦と高齢者の社会参加が急速に進んだのがわかるだろう。

出所:総務省統計局「労働力調査」を基に著者作成
[画像のクリックで拡大表示]
出所:総務省統計局「労働力調査」を基に著者作成

 つまり、この四半世紀で、日本社会は人口が減る中で労働力を増やすというパラドックスを成立させた。高齢化が進む中で生産性を維持するための窮余の策だろう。当然、過去より総労働者は増え、その多くが非正規のため、総労働者ベースの平均賃金は減る。他国のように生産年齢人口が減少せず、従来通りの雇用構造を維持できる国と、薄く広く働く日本を比べた場合、賃金が低く見えるのはこういう構造にあるからだ。