人口減が進む日本では、主に主婦・高齢者・学生による非正規労働者が産業を支えた。その待遇の悪さは長年問題だったが、非正規労働者の枯渇による採用競争で解決されつつある。さらなる改善に向けた海老原さんの提案とは。

(写真:123RF)
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 安い日本の正体は4つの複合的な理由からなるが、それは、金融政策と雇用構造の2つに大分される。前者については、早晩、アベノミクス色が弱まり、日本銀行の黒田(東彦)総裁の退任とともに、短期的には円高に振れるだろう。そのため、世界的なランクダウンはしばらく免れると予想される(ただし長期的には、日本の荒れた財政からすると不安は残るが)。

 一方、雇用構造から来る「給与が上がらない」問題は続く。これから4回にわたって、この問題をどう解決していくか、について考えてみる。今回は、「非正規問題」を取り上げることにしよう。

「安い非正規労働」の終焉

 復習も兼ねて振り返っておく。

 日本は1995年をピークに生産年齢が26年で1300万人も減少した。にもかかわらず、労働人口は、この間になんと400万人も増えている。それを可能にしたのが、縁辺労働者と呼ばれる主婦・高齢者・学生の短時間かつ非正規の労働だ。こうして、日本人が薄く広く働くようになったために、平均給与は下がり続けた。

 主婦・高齢者・学生の場合、多くが非扶養者や年金生活者であるために、昇給要望が少ない。どちらかと言えば、扶養者たる夫・親・息子の地位・給与安泰を願う。また、昨今では非正規労働者の参加を許可する労働組合も増えてきたが、そもそも、家事・学業の傍らに働くといった時間的制約や体力的な制約、組合費という金銭的制約により、参加率は上がらない。結果、非正規雇用の給与・待遇は余りにも低いまま留め置かれた。

 この問題をどう解決していくか。二つのアプローチがあり、すでにその一つは既に軌道に乗っている。

 一つは、「急激な人口減により、人材枯渇勘が高まり、採用競争により昇給が起こる」という市場機能だ。昨今、東京ではファーストフードの深夜帯勤務であれば、アルバイト時給が1500円を超えることも珍しくなくなってきた。

 なぜ、急激にこんな給与アップが起きているのか?それは、ここ1~2年で大きく雇用構造が変わってきたからだ。この流れが続くと、全国的に非正規雇用の給与がすごい勢いで上がっていくだろう。

 今、非正規雇用に何が起きているのか?前著『人事の企み』第一章で書いた社会の急激な変化を再説しておく。

 まず、高齢非正規について書いておく。高齢者の労働参加はここ20年間で急激に増えてきたが、そのほとんどが65~74歳のいわゆる「前期高齢者」であり、75歳以上の後期高齢者になると労働参加率は1%強しか上がっていない。つまり、決め手は「前期高齢者の数」だったのだ。それが、2022年から激減していく。第一次ベビーブーム世代が次々に後期高齢者化し、短時間ワークさえも卒業し始めるからだ。これから5年でなんと250万人もの人口減となる。つまり、高齢者の「再雇用の再延長」や「非正規パート採用」などがおぼつかなくなっていくのだ。

今後、前期高齢者は激減していく
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今後、前期高齢者は激減していく

 二つ目は、主婦パートが減少に転じたこと。すでにもう、女性の労働参加率は高まり、M字カーブの谷も浅くなった。どの年代の労働参加率を見ても、男性のそれからマイナス10~15%程度であり、非労働人口は少なくなっている。一方で、高学歴化して大卒総合職として働く女性たちを、人口減社会で企業は手離さなくなってきた。結婚退職率は1割を切り、出産退職も3割に留まる。こうして、女性は結婚しても出産しても「正社員として長く」働くようになった。その結果、「会社を辞めて子育てをし、その後に、主婦パートとなる」人材が細っている。下記図表を見れば明らかだろう。コロナ禍の始まる以前の2019年から労働に参加していない女性は減り続け、一方、女性正社員は増加ペースを上げている。

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 このようなことから、非正規2120万人(以下すべて2018年労働力調査より)のうち、実にその7割近くを占める主婦(943万人)、高齢者(407万人、主婦を除く60歳以上)で昨今、人材の枯渇が起きているのだ。結果、求人倍率などを見ても、非正規のみが急上昇している。それが、給与・待遇のアップにつながっているのだ。