日本でも欧州のような横断組合を作り、業界一律の賃上げと価格転嫁ができる構造を作る。この障害となるのが中小企業だ。利益や付加価値が大企業に集まる取引構造にメスを入れ、「給料が上がる」社会を築くために、今取るべきアクションとは何か。

(写真:123RF)
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 これまで書いて来た欧州型横断組合の「賃上げも、みんなですれば怖くない」体制、欧州では経営者がかなり心地よく感じているようだ。たとえば、フランスでは個別企業が自由に賃上げできるように法制変更をしようとするたびに、「それはやめてくれ」と経営団体から文句が出るという。経営の自由よりも、一律的な従属の方が良いというわけだ。

 

 日本でも欧州のような横断組合を作り、業界一律の賃上げと価格転嫁ができる構造を作る。―過去、何度も政労でトライしては徒労に終わったこの取り組みに対して前回は新たなアプローチを紹介した。それは、「従業員代表制」というもう一つの労使協議チャネルを作り、それが労組の「副業的業務(個社内の雇用にまつわる問題の解決)」を請け負うことで、労組を「待遇条件闘争」という本業に専念させるという目論見だ。社内の労使協議を従業員代表制に奪われた労組は、必然、外に出て目的を同じくする競合労組と手を組まざるを得ない。つまり、「従業員代表が押し出す」形での横断労組作りだ。

 これで、現在労組があるような大企業は、欧州的な「容易に賃上げできる」素地が生まれる。ただ、労組を持たない企業はどうすべきか? 何より、大企業を主にした階層構造の中で、低利益・低賃金を強いられる中小企業問題はいかに解決すればいいか。最後に残ったこの問題を考えることにする。

平均賃金を上げるには「中小企業を潰せばいい」という暴論

 その前に、一つ、残念な話から書いておこう。

 7月15日、日本テレビ系列のニュースでは、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事へのインタビューが放映された。そこで氏は「平均賃金の低さ解消のために『中小企業の数を減らす必要がある』」旨を説いていた。

 確かに日本の中小企業ではブラック問題などが多発している。技能実習生の過酷な労働問題として論われる事象も、実際には「中小企業では日本人に対しても当たり前に起きている」ことばかりだ。マスコミの「技能実習生の受け入れ企業では7割で違法行為が行われている」という報道からは、何か実習生向けにひどい行為が行われているように思われがちだが、実は、技能実習生と関係ない、一般企業向けに行われる臨検でもほぼ同じ数字が出ているのだ。

 いや、ことは一般企業向けの臨検の方がさらにひどいともいえる。実習生受け入れ企業の臨検は、基本「申告臨検」であり、外国人実習機構や入管、監理団体などに「苦情やクレームがあった」企業が中心となる。つまりそれだけ「黒の確率が高い」企業が集まっているわけで、おのずから違法発覚が高率となる。対して、一般企業の臨検は定期臨検といい、任意の検査で違法行為が発覚しているのだ。

 それだけ、市井の中小企業は闇が深いと言えるだろう。

 こうした企業はホワイトに再生を期すか、整理淘汰されていくのは仕方がないともいえる。菅義偉前首相のブレーンを務めたデービッド・アトキンソン氏なども同様のことを主張されている。ただ、給与アップについては、一概に「中小を潰せばいい」とは言えないところがある。

 その理由は、この連載を読んだ方は既にお分かりだろう。第一に、流通・サービス業は、その生産性も賃金も、企業規模と相関が弱いことがある。大企業でも低生産性・低給与なのだ。つまり、この分野は、「日本人の考え方」を変えない限り、規模の大中小関係なく、生産性向上は起きない。それは非正規への対策で、前々回書いた。サービスの対価を欧米並みに支払うと、サービス受益者側の利便性は今ほど大きくなくなり、サービス提供者側は高給・好待遇になる。その結果、産業自体は小さくなるが、単価アップのため、付加価値総額は変わらない。「高い給与で少し働く」サービス提供者と、購買量を減らしてしのぐ受益者という構図に変わる。

 

 これが大切なことだ。流通・サービス業などでは、大企業でも生産性が低い。アトキンソン氏には、この辺りの問題を忘れないでいただきたい。そして、大企業が連なる経営団体としては物分かりのよい同友会には、是非とも、こちらの方向も視野に入れてほしいものだ。