例えば新型コロナウイルス感染症は対処しなければならない新しい試練である。治療や予防に関する情報はもちろん、感染症が自社の事業にどう影響するか、世界の状況はどうか、といったことの情報を集め、議論し、今後の方針を固め、実行していく。

 多くの経営者が切望している、将来の柱になる新事業の創出に取り組もうとすると「経験がない困難な状況」に直面する。「敵」と書くと物騒だが、競合会社あるいは将来競合する可能性がある会社と読み替えればそうした相手の情報を集めなければならない。自分では新しい取り組みのつもりでも他社が先行しているかもしれない。

 「たとえ失敗を繰り返したとしても自分で考え、乗り切っていける人材がほしい」と語る経営者は多い。これも「経験がない困難な状況に対処」できる社員ということだから、情報やインテリジェンスという言葉は使わないとしても、それらが必要になる。

 当然、人事部にもインテリジェンスが欠かせない。経営者の意をくみ、失敗しながらもチャレンジし続ける人材を評価する新たな人事施策を実行するとしたら、まさに「経験がない困難な状況」に人事部自身が直面する。ほぼ間違いなく総論賛成各論反対になるので、経営幹部や現場社員の本音を探りつつ、施策を広めていくことになる。

 あるいは「あの部署に異動した若手は必ずといってよいほど苦労し、具合が悪くなる」「リモートワーク移行を社員に評価してもらったところ、特定の業務処理が問題だと指摘する声が多かった」といったことを察知し、原因を調べ、人事部としてできる処置をとる。これらもインテリジェンスの活動である。

事業の変革にインテリジェンスは必須

 以上は前回記事の最後に触れた、「そもそも情報とは何か。情報をやりとりする(交換する)とはどういうことか」という問いへの一つの回答である。

 いわゆる「デジタル化」あるいは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」で扱う情報の本質はインテリジェンスということである。本欄はデジタル化やDXを「社内外の情報を使いこなして事業を変革(トランスフォーメーション)すること」と定義している。企業が変わること、企業を変えることは「経験がない困難な状況」を招くから、「社内外の情報」(インテリジェンス)を「使いこなす」力(インテリジェンス)が必須になる。デジタル人材とはインテリジェンスを発揮できる人を指す。

 ここまで読まれて「インテリジェンスは確かに重要だがコンピューターを使わなくてもとれる、いや、そもそもコンピューターに入っていないのではないか」と疑問を持たれた方がいるかもしれない。その通りである。コンピューターから出てくる情報だけでは十分ではない。