もちろんコンピューターから出てくる情報は必要である。そもそもデジタル化やDXが喧伝されるようになった理由としてコンピューターと通信ネットワークの処理性能が飛躍的に向上したことが挙げられる。しばしば出てくる説明を以下に列挙する。

 スマートフォンを介して消費者一人ひとりの行動を把握する。これをビッグデータと呼ぶ。あるいはセンサーを介して機器1台1台の稼働状況や生産ラインの動きを記録する。これをIoT(モノのインターネット)と呼ぶ。集めたデータをBI(ビジネスインテリジェンス)あるいはデータマイニングといったツールを使って分析し、何らかの示唆を得る。あるいはAIに学習させ、処理を自動化する。

 大量の情報をスピーディに集め、分析し、利用できるようになったのは確かだが、「分析」するやり方を考え、「示唆」を読み取るのは人間であり、能力としてのインテリジェンスが欠かせない。例えばある事業についてコンピューターで分析した結果から、まったく別の事業のヒントを得ることもある。こうした価値を引き出すことは人間でないとできない。

 前回紹介した、ピーター・ドラッカーが指摘した「情報責任」も人間でないと果たせない。情報責任とは「どのような情報がいつ必要か、どのような形で誰から得るのか、自分はどのような情報を出さなければならないか、を考えること」である。

インテリジェンスを発揮できる人材の3条件

 事業変革などを支援するビジネスコンサルティング会社、インターブリッジグループ(ibg)の好川一(まこと)代表は「データや情報が石油のような資源と言われるようになったが、石油のままでは価値を生まない。誰もが使える客観性のある知識にする。あるいは意思決定に役立つインテリジェンスにしてこそ価値を生める」と指摘する。

 好川氏によるとデータや情報を価値に変えられる人材はいくつかの条件を備えている。第1に「目的を持って入手し、主観的に解釈する」。「こうしなければ」という強い目的意識を持っていないと変革に役立つ解釈や発想が出てこない。受け身では難しい。

 第2に「様々な事象の関係を把握し、関係を通じて情報を生かす」。企業であれば社内外にある色々な事象がどう関係しているかを頭に入れておき、ある情報がどこで生きるかを考える。工場の改善のために集めた情報を営業など他部門で生かす、といったことは全体の関係を意識していてこそできる。場合によっては関係を組み換えることもある。

 第3に「知能と知性、あるいは頭と心のバランス」が求められる。「知能は頭をどう使うかだが、理詰め一本やりでは問題が起きかねない。信念や理念といった心のほうも使って考え、判断する」(好川氏)。思い切った改革や関係の組み換えを思いつくには、創造的あるいは批判的な発想も求められる。そうした発想は何らかの信念や理念に支えられて出てくることが多い。

 組織全体の情報感度も高めないといけない。抱えている問題、取り組む解決策、そのための各種条件といったことについて、組織の関係者の間で理解の度合いが揃っていないと、変革を進めることはできない。

 共通理解に向けた第一歩について、ibgの池田光成氏は「一つの情報から一意に導かれる答えはない、という認識を持つところから始めてはどうか」と指摘する。「データやニュース、何でもよいが、事実は事実としても人それぞれ感じ方や捉え方が本来異なる。ところが職場環境や企業風土の兼ね合いから、多様な意見が出ることを良しとしない雰囲気が日本の組織にはある。意見を求められないし、聞いてもらえないから、社員はひたすら目の前のことをこなすようになってしまい、重要な情報に気付けない」(池田氏)。

 3条件を備えた感度の高い人材をつくっていくことは人事部の最重要課題である。どう育てればよいか。インテリジェンスあるいは情報責任を果たす力をもう少し吟味すれば見えてくるはずだ。そこで次回、「『どのような情報がいつ必要か』を正しく決められる力とは何か」を考えたい。