情報を混乱させる4つの問題

 ビジネスコンサルティング会社、インターブリッジグループ(ibg)の好川一(よしかわまこと)代表は2020年3月に、COVID-19がもたらした現状を踏まえ、ibgのコンサルタントに「現状からどのような本質が読み取れるか」「読み取れたことを踏まえ、どう行動すべきか」を考えるように呼び掛けた。コンサルタントたちは4点の問題を抽出し、その対策をまとめた。

 4点の問題と対策からなる枠組みはCOVID-19対策に限らず、様々なことに応用できる。この枠組みを借りて情報責任の果たし方を検討してみよう。

問題1・抜本策の不在

 抜本とは「根本の原因を抜き去る」という意味だがそうした策が出てこない。新種のウイルスであり実態の把握に時間がかかるとはいえ、マスクの増産、検査体制の拡充に始まり、閉鎖空間における活動の制限、外出の抑制(と金銭配布)、そして旅行の促進といった策がばらばらに進められた。

 判断のためにこういう情報がほしい、集めたこの情報とあの情報に基づき、全体としてはこのように考える、そこで以下の手を打つ、といった流れがほぼ見えず、もぐらたたきをしている感が強い。2020年末になっても、まとまった対策が講じられたとは言い難い。

 加えて好川氏は「いわゆる専門家の限界が見えた」と語る。ある分野に詳しい専門家が専門分野について正しい情報を出しているとしても、そこからいきなり対策を始めてもうまくいかない。色々な分野の専門家が示す情報を統合して最終判断することができていない、という指摘である。

問題2・意思疎通の不全

 多くの人がスマートフォンを持ち、頻繁にメッセージやメールをやり取りしているが、意思の疎通がしっかりできているかと言えば心もとない。情報を伝える手段が高度になり、大量の情報を送受信したとしても、何を何のために伝えるのか、目的がはっきりしていないと肝心の意思疎通には至らない。

 COVID-19対策についても、対策の目的や判断の経緯が今一つ曖昧なまま、キャッチフレーズを掲げて伝えようとするため、かえって分からなくなる。インターネット上では悪意に基づく煽動情報や偽の情報が善意の人によって拡散されている。

 「コミュニケーションは双方向で成り立つものということすら分かっていない場合もある」(好川氏)。上司から部下へ、教師から生徒へ、という一方向で何かを伝えるのであれば、リモートワークになってもオンライン授業になっても大して変わらず、両者の間で意思の疎通はないに等しい。

問題3・多極化による混乱

 問題1と問題2は多くの人が感じていると思われるが、ibgのコンサルタントは議論を進め、かつてあった絶対的な権威や規範、物事の中心といったものが無くなる、あるいは弱まってしまったことが問題1と問題2を引き起こしている、と考えた。多極化は国際政治でしばしば使われる言葉だが社会のあらゆるところで一極が見えなくなる現象が進んでいる。

 例えば、2021年以降どうなるかは分からないが、これまで世界のリーダーであった米国はここ数年、自国第一という本音を公言してきた。良くも悪くも米国追従で米国発の情報に基づいて行動してきた日本は自分の進路を自分で決めることを与儀なくされている。

 国家や階層組織という一種の権威を超えて人やビジネスや情報が行き来する、いわゆるグローバル化とフラット化も進んでおり、COVID-19も世界中にすぐ広がった。一方、COVID-19発生国からの人の移動を直ちに遮断した国はCOVID-19の封じ込めに成功している。

 多極化には良い点も悪い点もある。情報について言えば一定の秩序にそって発信されるのではなく玉石混交の情報が様々な極からあふれ出るようになった。玉をつかめれば良いが石をつかんでしまう危険もある。

問題4・エゴイズムの露出

 権威が無くなる、あるいは弱まると大は国家から、中は地域や企業、小は個人まで、権威によって抑えられてきたエゴが表に出てくる。エゴは本音であり必ずしも悪いわけではないが、本音の情報がぶつかると、あつれきが生じる。COVID-19によってこの傾向がさらに強くなった。これも問題1と問題2の背景にある。

 例えばCOVID-19のワクチンについて、各国で平等に利用していこうという意見はあるものの、本音では自国を最優先したい。世界は自国中心、西欧中心、白人中心の近代に後戻りしてしまうのか。一方で覇権主義を公然と打ち出し、その情報を世界にばらまく大国もある。

 人類のエゴイズムもある。「人間が自然を思いのままにコントロールできるという発想が間違っていることをCOVID-19によって再認識したのではないか」(好川氏)。