(写真:123RF)
(写真:123RF)

 「DX(デジタルトランスフォーメーション)について相談したい、と言われて数社を訪問したものの、聞かれる内容が大きく違ったので興味深かった」

 こんな話をIT(情報技術)関連企業の若手がしてくれた。それなりの規模の企業で情報システム部門を受け持つ責任者から呼ばれたが、人によってDXで提供する価値の見方が大きく異なっていた。

 ある企業のシステム責任者は「我々の役目は事業部門が仕事を変えられるような情報を届けること」と語った。この場合の提供価値は「仕事を変える」、すなわちトランスフォーメーションにある。その企業はオーナー社長が経営しており、常日頃から「お客様に喜んでもらうにはどうすればよいか考えよ」と社内で説いている。

 別の企業の情報システム責任者は特定の業務システムを使う工夫についてひたすら質問してきた。この場合の提供価値は「システムを導入すること」にある。若手の彼があれこれと話を持ち出してもシステム導入にかかわるところしか聞いてくれない。提供する価値、つまり目的によって人に見えている世界はまったく違う。それを若手は実感したそうだ。

 価値や目的の高低は物事が見える視座の高低でもある。価値や目的が高度になると視座を顧客や他の部門が見えるところまで引き上げなくてはならない。高い視座があればおのずと高いところにある価値や目的を目指していく。そうではなく自分あるいは自部門だけを見ていると目指す価値は結局、自分のためだけのものになってしまう。

視座の低い人たちはどう行動するか

 「最近ある勉強会に出席していたら、メカエレキソフトという話が出てきて愕然としました」

 大手電機メーカーの出身者であるベテラン技術者はこう語る。彼がメーカーにいた当時、機器を導入する工事現場に行くと「朝礼の際、現場責任者の近くに土木の関係者が立ち、その周りに機械屋さん、次に電気屋さん、一番離れた場所にソフト屋さんがいた」。ただし20年も前のことであり「DXが取りざたされている昨今でも、そんな言い方が残っていたとは驚いた」。

 メカエレキソフトとは製造業における技術者の序列を表す。機械を設計し開発する技術者からするとエレクトロニクスやコンピューターソフトウエアを手掛ける技術者は格下になる。電気回路を設計する技術者からするとソフトウエアを記述する技術者は格下になる。

 すべての技術者がこう考えているわけではもちろんないが「ソフトなんて外注の仕事です」と言い、社外に発注していた電機メーカーの技術者に会ったことがある。社長がDXに取り組むと宣言し、DX責任者をIT企業から招いたものの失敗に終わった企業の現場が「ソフト屋はやっぱり駄目」と言っているという話も聞いた。

 これらも視座に関わる問題である。機械の技術者は機械中心で世界を見るので辺境にあるソフトウエアのことはよく分からない。かたや、機械やエレクトロニクスの技術者からの一方的な指示を待つことに慣れてしまったソフトウエア技術者もいる。どちらの視座からも事業や製品のトランスフォーメーションは見えてこない。