DXではなく、情報システム部門を立て直す

 極端に言えば、なんらかのビジョンさえ描ければ、そこから先はなんとかなる。専門技術が必要になったら外部の専門家に頼む。とはいえ中長期を考えると自社内にデジタル技術を使いこなせる力を備えたほうがよい。

 DX人材の話に出てくる専門家は真のDX人材ではない、と述べてきたが、ビジョンを推進するために専門的な力が必要になる。わざわざDX人材と言い換えなくてもよく、従来のIT人材ないし情報システム人材と同じ話になる。

 ibgの大西氏はITや情報システムに関わる専門人材について「情報システム部門が衰退した経緯を振り返る必要がある」とみている。

 「企業は情報システム人材を内部に持とうと新卒採用または中途採用し、社内のプロジェクト経験を積ませ、業務知識とシステム関連知識を身に着けさせてきた。その後、各種のパッケージソフトの流行やプロジェクト規模の拡大もあって、システム関連プロジェクトを社外へアウトソースするようになり、社内の情報システム部門は人員を減らされ、外部の委託先との窓口係になっていった。こうした現状の中で急にDXという名の人材確保に走ろうとしている」

 大西氏は社内の人材を有効活用できる社内ローテーションを提案する。

 外部委託先との窓口になってしまった情報システム部門に事業部門から人材を異動する。事業部門のビジネスオーナーの考えや顧客体験の向上といった目的をシステムでどう実現するかを考え、システムに仕上げるところを情報システム部門に移った事業部門出身者が受け持つ。もちろん外部のIT企業との折衝も担当させる。IT関連の実務者が足りない場合、IT企業から中途採用してもよい。次のような実例があるという。

 「ある企業では顧客体験を向上させるプロジェクトに、新卒のときからその事業を担当してきた30歳前後の若手をアサインし、システム部門に異動させた。若手は事業に対する想いがあり、期待される顧客価値を十分体感しており、システムを使ってこれまでやれていなかったことを実現しようと情熱を持って取り組んだ。事業部門とのコミュニケーションも円滑。システムから出てくる情報を事業でどう活用するのかを体感できる点でも優れていた」

 事業部門側のエースを情報システム部門側のキーパーソンとして送り込む、こうしたやり方は昔からとられており実績がある。ただし、現場の視点から考えるだけでは改善や効率化のためのシステム導入になりかねないから、例えば「顧客体験をこう変える」といったビジョンを立てることが第一である。

 魅力的なビジョンがあれば専門家の採用に役立つし、優秀な人材を引き留められる。ピーター・ドラッカーは知識労働者にとって重要なこととして「第一に組織が何をしようとしており、どこへ行こうとしているかを知ることである」と述べた(『ネクスト・ソサエティ』(上田惇生訳、ダイヤモンド社)。さらに次のように喝破した。知的労働者を「惹きつけ留まってもらうことが人事の中心課題となる。何が役に立たないかは明らかである。金で釣ることである」。

 ビジョンを描ける人材の育成、ビジョンを実行できる体制をつくるための人事異動、いずれも人事部門が取り組める。急に外部から専門家を採ったところでどうなるか、人事部門は過去の経験から知っているはずだ。「DX人材を採れ」と社長から言われたら拒否できないだろうが、その通り実行しても失敗に終わるだけで結局は人事部門の責任になる。

 本連載はDX人材のあり方を考える場である。DX人材についてご意見・ご質問がある方はぜひ下記からお寄せいただきたい。

連載『人材開発の情識』では、人事のお仕事をされている読者の皆さんからご質問やご意見を募集しています。連載の主題は「デジタル人材」をどうやって揃えるか。しっかり活躍してもらうにはどう処遇すればよいのか。「デジタル化」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」といった言葉が躍り、デジタル担当役員を置いたり、DX推進室を設置したりする企業が増えています。しかし、実際の担い手が足りない、いない、という声も聞こえてきます。デジタル時代の人事戦略についてご質問・ご意見をお寄せください。連載の中で回答します。ただしすべてにお答えすることはできませんのでご了承ください。

[ご質問・ご意見はこちらから](終了しました)