「定着させたい人材」が経営幹部によって異なる

 「4~5年で人がほとんど入れ替わってしまう。離職率の高さをなんとかしたい。どうしたら社員が定着するのか」

 ibgはこういう相談を受けたことがある。この企業は経営理念やビジョンを持ち、事業戦略も毎年きちんと立てていた。ただし、人材像についてはまったく議論できておらず、事業戦略の中に必要な人数と総額人件費が書いてあるだけだったために、人事部門がいわば機械的に採用していた。

 「そもそもどういう人材を定着させたいのか」と社長や主要な幹部に聞いて回ったところ答えはバラバラだった。「高い専門性を持つ人」「高い業績を安定して上げている人」と答えた幹部がいたかと思うと「人材市場で希少な人」「忠誠心の高い人」、果ては「一生懸命やっている人」を挙げる幹部もいた。

 つまり採用も評価も配置も教育も人事部門の判断で進めていたことになる。人が定着しないのは当然と言えた。研修ひとつとっても「こういう人になってもらいたい」といった共通認識がないまま外部の研修会社から提案されたものを実施しても成果は期待できない。

 求める人材像が不明確、あるいは経営陣や現場がばらばらの人材像を抱いている組織において新たな「××人材」を探し、育てようとしても混乱するばかりである。

グランドデザインは上から順を追って描く

 「採用、研修、評価に至る人事施策のすべてのよりどころになるのが求める人材像」とibgは指摘する。人事施策のグランドデザインは図のように順を追って描いていくことになる。

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(出所:Interbridge Group)

 人材像を描く大前提は経営理念やビジョンである。図では組織の将来像に加え、そこに至る道筋(戦略)も明らかにする。これらについて何かを書いている組織は多いものの実際には形を整えただけで、現場はもちろん経営陣でさえ何かを決める際のよりどころにしていないことがある。そうだとしたら現状の経営理念やビジョンを見直し、現場の声を聞いて実態をつかみ、そこから求める人材像を描いてみなければならない。

 例えば道筋(戦略)が不明確であったなら、人事部門は経営陣とワークショップなどをして具体化する。現状の真の問題がよく見えないようなら部課長とワークショップなどをして本音を聞いてみる。読者の方の質問に「情報システム戦略を立てることができる人材」とあったが情報システム戦略を立案するにはその上位となる事業戦略が前提となる。事業戦略が曖昧なら情報システムは活躍できない。

 以上を踏まえて求める人材像を描き、ようやく「××人材」をどう位置付けるのかを議論できる。元々求めていた人材像が「DX人材」にもなり得るのか、そうでないなら既存の人材像と「DX人材」は何が違うのか、といったことを話し合う。もちろん自社における「DX」の定義も議論したほうがよい。情報機器、デジタル機器の利用と人の意識や組織風土の変革は区別しなければならない。

 「DX人材」が「自社内の変革を進める人」なのか、「顧客企業のDX案件を手伝える人」なのか、それによっても話が変わって来る。前者であればDXといっても技術ではなく人や組織の変革を指すわけで結局、目指す人材像や組織の姿は何か、というところに議論が戻って来る。

 後者になると「人」の範囲から考えないといけなくなる。自組織だけではなく、顧客や協力相手、調達先などサプライチェーン全体に人はいる。自組織だけ見ても主要株主、経営トップ、管理職、一般社員、パートタイマー、さらに従業員の家族もいる。何かを変えようとしたらこれだけの人がどう変わるのか、どう影響するのか、といったことまで想像する必要がある。