経営と現場の間に降り立って調整を

 ビジョンやそこに至る道筋、組織外まで含めた目指すべき人材像、といった諸々を描き直そうとすると前述のように骨が折れる過程を経なければならないことが分かる。

 経営者によってはビジョンや求める人材像などの大前提や目的の確認に意味を見出せず、順を追う取り組みを面倒だと受け止める。前出の図を見て「いかにもコンサルタントが描きそうな絵だ」とつぶやく経営者がそうである。人事部門としては「そこは経営者が考えて下さい」「我々がやる範囲を超えている」と言いたくなる。だが「人事部門として」と言う前に「経営者と現場の間に誰かが降り立たなければ」と考えてはどうだろうか。

 「社長の考え、人事の考え、現場の考えが揃っていない」ならそれを調整し、考えを揃えていかない限り、採用も育成もあったものではない。人事部門はそれができる立場にある。人事部門だけでは無理と言うなら同じ問題意識を持つ幹部なり経営企画部門なりと組んでみる。

 もちろん一番上のビジョンや道筋を設定できるのはやはり経営者であり、そこが不明確あるいは無い場合、人事部門が経営者と話をして策定を促すことはやはり避けて通れない。

 そうなるとビジョンから全社戦略、事業戦略、情報システム戦略、そして求める人材像、採用・育成の戦略へ、という順に物事をはっきりさせていく取り組みをすることを経営者に納得してもらわないといけない。例えば、採用や育成で起きている現実の問題を示し、順を追った取り組みが必要だと訴える手がある。

  • 採用の要件が一般的なものにとどまり他社との差別化ができていない
  • 自社で働く魅力を応募者に訴求できない(魅力の一例は未来の組織の姿や社会課題の達成に向けて取り組む道筋など)
  • 採用できてもすぐに辞める(採用要件と現実にギャップがある)

 こうした問題は上から解いていくしかないと説明し、手順を踏む必要を分かってもらう。後は図で表したに順を追って人材像を描いていく。そのときに必要な姿勢をibgにまとめてもらった。

  • 世の中の変化を展望する
  • 自社の強みや弱みを客観視する
  • 経営者と現場、双方の立場と主張を理解する
  • 仮説を経営陣や現場に繰り返しぶつける

 仮説とは経営理念やビジョン、さらに世界の変化を踏まえた、「我々のビジネスはこうなっていくからこういう人の集まりになろう」といったストーリーである。人事担当者も自分自身の仮説を持って取り組むことが重要だ。仮説がうまく立てられないなら不足している情報を探す。経営陣や現場の反応を受けて必要に応じて仮説を調整する。経営陣、現場、自分の考えをぶつけあうことで仮説をよりよいものにしていける。

 ビジョンや今後の世界のあり方から考えて仮説を練り上げていくと結果として題名に冠した「10年後」かどうかはともかく、ある程度まで先をにらんだ人材像が出てくる。「そんな悠長なことを言っていられない」という姿勢では数年おきに「××人材をどうするか」と騒ぐことになる。