いわゆる「煙草部屋」に相当する場をオンライン上に設ける手もある。仕事あるいはそれ以外でも悩みや困りごとを気軽に話し、気軽に応答してもらえる場である。煙草部屋の場合、喫煙という用事があるから人は集まっていた。オンラインの場合、例えば「〇〇手法雑談会」といった名称の場を開き、〇〇手法についてざっくばらんに話ができるようにする。こうした実例もすでにある。

 「人と対話し人を引っ張っていく力」、これは一番難しい。いわゆるリーダーシップ研修をオンラインで実施したとしても人を引きつけられる人柄、人格までは陶冶されない。そもそも研修だけで得られるものではない。

 ただしリモートワークが常態になると別の可能性が出てくる。家庭や地元の生活あるいは趣味を通した学びである。3月以降の外出禁止を受け、あるグローバルIT企業は自宅で子供が両親とともに勉強できる参加型eラーニングサービスを無償で公開した。そのサービスを使うと子供と共に仮想世界を体験し、考え、話をして、何かを創ってみることができる。

 同じ体験をしているのに面白がるところが子供と大人で、あるいは女性と男性で異なり、人の多様性への気づきが得られる。大人にとっても「考え」「何かを創ってみる」経験は大事であり、目に見えない力を育てることにつながる。趣味の世界で同好の士とオンライン上で集まり、雑談や情報交換をしてみると同様の気づきや学びがある。

 家庭や趣味の世界は楽しいばかりではなく、人間関係でストレスを感じることもあるし、皆で何かを決める場合に意見の対立が生じたりする。相手の主張をよく聞いたり、説得を試みたり、場合によっては妥協をしたり、試行錯誤をしつつ対処する。この過程から、対話やリーダーシップに大事な「見えないもの」を結果として学べるだろう。

 これまで多くの企業人にとって企業は最も長い時間を費やす場であり、各自は仕事についてはもちろん、仕事以外でも何らかの影響を受けていた。影響には色々あり、良き社風に染まる、先輩の背中から学ぶ、チームへの忠誠心が高まる、といった好ましい影響もあれば、不愉快な人間関係に気をもむ、発想や行動が周囲と同じになってしまう、といった好ましくない影響もある。

 リモートワークやオンライン教育が常態になると企業が社員に与えてきた影響は良くも悪くも減る。「人と対話し人を引っ張っていく力」は身につけにくくなるが、それは家庭や地域社会、あるいは趣味の世界においても育てることができるのではないか。

 言うまでもないが「課長に昇進したかったら家で子供の相談にしっかり乗りたまえ」などと企業から要請する話では全くないし、当人がそう考える必要もない。ただ、今までより職場にいる時間が減り、家庭や地域にいる時間が増える以上、仕事や家事に対する時間配分や取り組み姿勢を自分なりに考えないといけない。

 「考えないといけない」と書いたものの、すぐに答えが出る問いではない。通勤時間は減るし子供といられるし嬉しい限り、仕事は淡々とこなせばいい、と思う人もいれば、職場に長時間いる方が楽だ、家庭にいるのはつらい、という人もいるかもしれない。新たな環境で自分自身をどう位置づけていくか、これも一つの学びになる。

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