Work―Xではオフィスという「箱」だけを変えるのではなく、社員の意識・行動変革につなげることを狙いとしています。当初は社員全員がオフィスに出社する想定で施策を考えていましたが、コロナ禍で在宅勤務をする社員も増えたことから一部施策の見直しも必要になりました。ただ、もともとの意識・行動改革という目標は変わりません。むしろニューノーマル下において、ABWによる働き方は想定よりも速く社員に浸透しつつあります。
分かりやすい例がペーパーレスです。本社における印刷枚数は、2018年度に比べると2020年度は81%削減となりました。また、グループアドレスという組織ごとのフリーアドレスを導入しました。コロナ環境下では必要に応じて近くに座ったり、あえて少しスペースを空けたりして仕事することもできます。選べるのが当たり前になりました。ですが、社員が出社していれば計測できたデータがそろわないのが現状です。そのため新オフィスになった後の効果測定にはもう少し時間がかかると考えています。

オフィス空間とデジタル空間のデータを分析
――新オフィスになってから、社員の働き方で明らかになってきた傾向とは?
太田:当初は全員が出社できる前提で、オフィスでのコラボレーションがどれくらい進んでいるかというデータを取ってきました。一方でワークプレイスの軸に加えて、ワークスタイルの軸でもデータを取っています。コロナの影響でメールやチャットなどデジタル空間にもデータ取得の対象を広げました。
まず、デジタル空間のコラボレーション量では、組織内の相手ではなく社外を含む組織外とのコラボレーションが多いことが分かりました。オフィス空間では、これが逆になります。近くにいる人と話すことが多いため、組織を超えたコラボレーションは難しい。ですが、各フロアに大きく取ったコミュニケーションスペースの「キャンプ」で発生するコラボレーション量の半分が、組織を超えたものだとデータで見えてきました。一方で、従来の執務室に当たるスペースでは10%程度しか組織外とのコラボレーションができていない。組織外とのコラボレーション促進を狙って設けたキャンプの効果がデータで分かるようになりました。
位置情報を使ったコラボレーションの測定については、システムが3メートル以内に10分以上一緒にいた人を「接触した」と判断します。実際に会話をしたかどうかまでは分からないですが、キャンプでは他組織の社員が近くにいる空間が作られています。以前のオフィスには、こうした空間はありませんでした。下の画面は組織単位でコラボレーションがどのように起きているかを分析した例です。マトリックスでは同じ部門相手のコラボレーション量が中央斜線の濃いピンクの部分に表れます。私たちが注目しているのは斜線以外に表れているピンクの部分。意図していなかった新たなコラボレーションの発見につながるからです。