――男性の育休取得についても積極的ですね。

綱場:男性の育休取得に関しては、私は「義務化」することには賛同できません。たしかにそれで育休取得率は上がりますが、ニーズがあって制度を活用するようにしないと、職場に復帰した際にさらに仕事モードが加速してしまって子育てには積極的に参画しないという最悪のケースになりかねません。

 私は昨年、次男の出産の機会に2週間の育休をいただきましたが、妻の入院の時に100%長男の世話は私がするという「必要に迫られて」の状況からでした。一方、おかげさまでその年には当社で育休を取得した男性社員が前年の3倍になりました。私の育休取得が、男性社員の背中を押したのならうれしいですね。

 つい最近も「半年間育休を取った男性が仕事に復帰した時に、さらに輪をかけて仕事漬けの働き方になってしまった」といった趣旨の記事を読みました。育休の間は育児に積極的に関わっていたのに、職場に復帰したとたんに子育てへの関与を全くしなくなってしまったそうです。半年間の仕事での遅れを取り戻そうという焦りもあったのでしょうか、保育園の送り迎えや、子供が病気にかかった時の介抱など、すべて奥さん任せになってしまったということです。奥さんからすると育休中とのギャップがひどいために、ますます輪をかけてフラストレーションがたまったのではないでしょうか。このお話は非常に示唆に富んでいるエピソードですよね。たぶん、掘り下げていくと、日本社会の育児に対する考え方に端を発していると思います。

――男性が「育児に協力してあげている」という意識でしょうか。

綱場:ええ。まさにこの「やってあげている」という意識が根本的な問題だと思います。育休は、「会社が義務化しているから取る」のではなく子育てに均等に関わるために必要だから取る、という考え方でない限りは、結局育児への関与が薄くなってしまって制度が形骸化してしまいます。会社で強制的に取得させなくても、男性が率先して育休を取れるような環境の整備が、経営者側の責務です。そのためには、例えば育休から復帰した男性に対しては、周りが週に2回は早期退社できるようにサポートするなどといった施策が重要だと思います。

 ノバルティスは世界的に、2021年までに男女問わず14週間の有給での育児休暇を制度化することを発表しました。日本でもいつから導入するかを現在、検討しているところです。

――日本の場合は義務化して上から強制しないと、誰も育休を取らないという風土があります。

綱場:まさにそれが問題で、まずはその風土を変えなくてはいけないのです。会社組織のどのような制度も企業風土というベースの上に成り立っています。企業風土が醸成されていない状態で制度だけ作っても絵に描いた餅になります。まずはベースになる企業風土をしっかり作り、その上にハード(環境)とソフト(制度)を作る必要があるのです。ベースがない中で環境や制度だけを変えようとするから、組織が機能しなくなるのです。

 ノバルティスは人類史に残る医薬品企業となるという目標のもとに革新的な医薬品を積極的に開発し、提供しています。革新的な医薬品を提供するためには常に「患者さんファースト」を念頭におき、社員が働きがいを持って業務にあたれる、そういったカルチャーを世界的に浸透させようとしています。

――イノベーションの創出のために、社員を巻き込んでいくことも重要ですね。社員の声を拾う施策は何でしょうか。

綱場:できるだけ社員と直接対話をする機会を設けています。2017年はタウンホールや昼食会などで1000人の社員と直接に対話をする機会を作りましたし、2018年はもっと多かったと思います。また現場に足を運ぶことも重要だと思います。顧客の生の声や現場の社員の声を直接に聞けますし、良いアイデアがあればすぐに導入することもできます。また7月以降は社長席をなくし、他の社員と一緒に座りますので、今よりもっと社員の声を直接聞く機会が増えると思います。

 事業部長も私と同じくらい足繁く現場に足を運んでいますが、いわゆる本社機能のスタッフやバックオフィスのリーダーは、これからですね。最低でも3カ月に1回は現場訪問をして顧客の生の声を拾い上げた方がいいと思っています。

――御社は今後1年で、さらに大きく変わられますね。

綱場:変わっていきたいですね。医薬品業界の歴史の中で、世界的に見てもこれほど多くの新薬が立て続けに出てくることはなかったと思います。来年には6つの新規化合物の承認取得を目指しています。今年は世界初のガンの細胞療法の発売を開始しましたし、昨年には革新的な遺伝子治療薬の承認取得申請も提出しました。だからこそ企業文化も大胆に変革していかないと、革新的な医薬品を提供できるに足る革新的な人材は育たないと思います。