――顧客を知るために「われわれのビジネスが何か」を意識するとはどういうことでしょうか。

三木:例えば中途入社の社員の入社式で挨拶する時、私が冒頭で必ず「われわれのビジネスって、本当に必要なの?」と問いかけます。そして「30万円のバッグや100万円の時計って、日常生活にどうしても必要なものではないよね。それなのに、なぜわれわれのブランドが100年も200年も存続し、支持してくれるお客様がいるのか。皆さんには、それを考えてほしい」と続けます。

 さらに、「われわれのビジネスは、エモーショナルビジネスだ」ということも伝えます。われわれのブランドの価値を顧客に伝えるには、ロジックや定義、ルールに沿ってではなく、エモーションが必要になります。だから社員には、「感性豊かで、常にエモーションを引き出せる人であってほしい」と話しています。

 お客様がわれわれの商品を欲しいと感じるのは、ニーズ(必要性)からではなくウォンツ(欲求)からです。時間を知るというニーズだけなら、高価な時計を買う必要はありませんからね。われわれはウォンツビジネスをやっているから、お客様に「(ほかではなく)“カルティエの”時計が欲しい」と思ってもらわないといけない。

 ですから社員には常に感性を磨いてほしいし、美しいものを見て美しいと感動できる人であってほしい。それがわが社の中で成長する方法であり、われわれのビジネスの根幹なのです。そういった人たちが増えれば、中長期的観点でも、仕事の成果や企業の成長につながっていくはずです。

優秀な女性たちがトップを目指す意識を育てたい

――グループの行動指針では、イクオリティ(平等)やダイバーシティの推進も明文化しています。

三木:グループとしてワールドワイドに、ダイバーシティも含めた人事戦略を推進しています。ただ正直言って、ダイバーシティを唱えているうちは、まだまだだと思います(笑)。わが社は女性が58%、働く人の国籍は15カ国にのぼります。インターナショナルカンパニーであり、女性活用の面でも一定の基準を満たしています。われわれにとってはそれがスタンダードです。

 しかし日本で展開している16ブランドのうち、日本人がトップを務めるのは5ブランドにすぎません。ラグジュアリーブランドの日本のヘッドの日本人比率は、昔に比べて低くなっています。多くの日本企業では、ダイバーシティといえば「もっと外国人を採用せねば」という方向だと思いますが、わが社の場合は逆ですね。国籍を意識してトップを任せているわけではなく、あくまで適材適所の自然な采配ですが、もう少し日本人が頑張ってくれるといいなというのが本音です。

――インターナショナル企業ならではの悩みかもしれません。日本人のトップが減っているのはなぜでしょうか。

三木:理由は分かりませんが、若い日本人で意欲の高い人がもっと増えて、最終的な選抜のテーブルに乗ってくれるといいと思います。女性も同様ですね。わがグループの中では、「女性の登用」「女性比率を上げる」ということを格別意識すること自体を遅れている証拠とみなしていますが、女性にももっと頑張ってほしいという思いは強いです。

 ここ数年、新卒採用の面接で最後まで残っているのは女性ばかりです。人事に聞くと「性別に関係なく優秀な人材を選んだ結果、ほとんど女性になった」と。今後はますます女性の活躍の場が広がるはずなので、大いに期待しています。

 しかし、能力や努力だけではトップマネジメントには就けません。「社長になりたいか?」と聞くと、男性社員の多くは「なりたい」と言いますが、女性で「なりたい」と答える人は、まずいません。

 ブランドのトップを務めたい、社長になりたいなど、目標を決めて強い意思を持たない限り、そこには到達できません。女性にも意識を変えて、上を目指すという生き方、働き方を目指してほしいのです。企業としても研修やキャリアプランニングなどアプローチを工夫していきますが、女性自身もぜひ意識を高めてほしいと願っています。