デジタル化とデータの利活用で人事戦略を加速していく流れの一方で、リクナビ事件により個人情報保護法改正の方向性が変わるという見方も出てきている。しかし、先に書いたようにビジネスの対象が「モノからサービスへ」、「財物からデータへ」と急激に変わっていく社会は、法(律)の基盤と前提を変えるインパクトを与えるという指摘もある。

『AI時代と法』
『AI時代と法』
小塚壮一郎 著 / 岩波新書 / 924円(税込) / 246ページ / 2019年11月刊

〈「コードが法に代わる」可能性を示唆〉
 著者は「法が(技術の進化によって引き起こされる)社会の変革に追いついていない」と指摘する。2018年5月に施行されたEUの一般データ保護規制(GDPR)では、自分に関する個人データを「一般的で読み出し可能なフォーマット」で受け取る権利(いわゆる「データ・ポータビリティー権」)など画期的な権利が認められた。例えば、企業が人事施策に従業員のデータを活用していくには、データ主体となる従業員の承諾に加え、その対価を還元すること、その仕組みを作る必要がある。データ利活用ルールを作る試みはグローバルで進行しているが、どれも「原則」という形をとり法的なものではない。AIが普及する時代には「コード(アーキテクチャ)が法に代わる」現象が広がっていくと著者は示唆する。この分野の動きは速いが、概論を把握できる一冊だ。

社会へ開かれた組織を目指して

 12月、改正会社法が成立し、上場企業でいち早く取り組んでいる社外取締役設置が義務付けられた。とはいえ単に社外取締役を置くだけではなく、いかに彼らに働いてもらうかが焦点となる。企業不祥事防止はもちろんM&Aなどの局面で、社外取締役が社内の事務局と協働していく組織作りが問われる。併せて、社内のコンプライアンス人材の確保・育成も重要な課題となっていくだろう。

『企業不祥事を防ぐ』
『企業不祥事を防ぐ』
國廣 正 著 / 日本経済新聞出版社 / 1,870円(税込) / 324ページ / 2019年10月刊

〈「空気を読まない力」が企業のガバナンスを高める〉
 コーポレートガバナンスの観点から社外取締役の義務化が進められてきたが、多くの企業では過剰規制による「コンプラ疲れ」が生じており、企業不祥事は後を絶たない。山一證券事件の調査委員会立ち上げから多くの企業の危機管理実務を手がけてきた著者の実例と提言は示唆に富む。危機管理のためにこそ必要なのは、場の空気(同調圧力)を読む必要がない「多様性(異分子)」であり、企業の存在意義を問い直す「インテグリティ(誠実さ)」である。