企業組織とは異なる、むしろ真逆ともいえるだろう組織のルポルタージュを挙げる。今年は日本ラグビーの「One Team」が話題になったが、世界で活動する「国境なき医師団」(以下MSF)は本部が存在しない「One MSF」だ。5カ所のオペレーションセンターを37カ所の事務局が支える分散型組織によって、意識的に独立性と機動力を高めている。

『「国境なき医師団」になろう!』
『「国境なき医師団」になろう!』
いとうせいこう 著 / 講談社現代新書 / 990円(税込) / 272ページ / 2019年9月刊

〈理念に共感する専門人材が協働する分散型組織〉
 世界で約4万7,000人が働くMSFでは実は非医療スタッフが47%を占める。現地で医療活動を行うためのインフラ作り、安全管理、経理や人事など業務は多岐に渡る。このような専門人材が必要とされるがさらに積極性、ストレス対応力、柔軟性や適応力も重視する。現場では多国籍チームで活動するため、英語かフランス語の語学力も必要だ。こうしたスキルと実務経験がある人材であっても、MSFミッション期間後の再就職、仕事先が見つけにくいのが日本の現状だという。そもそも日本では「国際協力NGO・NPOの実務経験をキャリアとして捉えられない風潮がある」と著者は指摘する。一方で、日本人はチーム内で調整機能としてうまく働けるともいう。控え目さや礼儀正しさといった日本人の特性が発揮できる場面もある。グローバル化を進める企業の組織開発、人材採用のヒントになる。

ヒトが人である所以、これからの社会を想像する

 さて、少し飛躍してみよう。人とは、集団とは何なのか。なぜ、企業組織という形態の経済活動が有効なのか。そして、テクノロジー化の先にある人間のコミュニケーションはどうあるべきなのか。

 航空宇宙工学エンジニアから人類進化生物学の学者に転じた著者が「人類進化や自然人類学の分野は人間の行動や意思決定の重要な側面の説明に役立つ」ことを証明した20年の研究をまとめた一冊を挙げる。アマゾン川から北極圏へ、サルからヒトへ、ヒトから人へと至った「集団脳」を学ぶ時空を超えた旅へ。

『文化がヒトを進化させた』
『文化がヒトを進化させた』
ジョセフ・ヘンリック 著 / 白揚社 / 3,960円(税込) / 605ページ / 2019年7月刊

〈「集団脳」の拡大がイノベーションの鍵となる〉
 ハーバード大学の人類進化生物学教授である著者は、「イノベーションには天才も組織もいらない。必要なのは、多数の頭脳が自由に情報をやりとりできる大きなネットワークのみ」という。社会的なつながりを通して異なるモデルから学び、新たな組み合わせを創造してきたのが「集団脳」としての文化の役割である。人という種の進化の仕組みを振り返ることは、未来社会を創るための杖となるはずだ。