――島に企業の事業開発担当者を呼んで、研修もしているそうですね。

石田:つい最近は、日本を代表するある団体のメンバー、15人ほどが島に来ました。当然、イノベーションとは何かとか、そういうことは理解しきった人たちです。

 「これからの時代に求められる新しいモビリティーとは一体何なのかというテーマを突き詰めるのに、石田が提案している『バックキャスト思考』を使いたい」。このような理由で、私のところにご相談いただきました。バックキャスト思考とは、一言で言えば未来の姿を前提に今何をするべきかを考える手法です。

 でも、私の研修では、「早速バックキャストで新しいモビリティーを考えましょう」なんてやりません。滞在日程4日間のうちの3日間は、いわば直感力を呼び起こすトレーニングです。まず私が投げかけたお題は、「この島で、皆さんが美しいと思ったものを探してください」と。自分はなぜ美しいと思うのか、それを徹底的に深掘りしてもらうのです。

 例えば、海がきれいだと感じたとします。沖永良部島の海は本当にきれいで、島から30メートル先まで透明な海が目の前に広がっている。そんな海、日本の近海にはなかなかない。

 どうしてきれいだと感じたの? きらきら光っているから。どうしてきらきら光っていると美しいと感じるの? といった具合に、自分の心の底まで、ずっとずっと深掘りをしてもらいます。

 それで研修を受けている人たちに何が起きるかというと、語彙が増えるんです。沖永良部島に初めて来た人が、島の海の美しさを20分語れるかというと、普通はまず語れません。でもそこをひたすら掘り下げて語彙を増やしていく。すると、20分語れるようになる。

――20分というのはそんなに短い時間ではありません。相当考え抜かないといけませんね。

石田:そう。だからこそ、まとまった時間が必要なんです。しかも、そこで養われた語彙は多くの場合、その人の過去における思考回路にはない語彙です。

 語彙が増えると、思考が全く変わってくる。それが狙いです。逆に言えば、3日間かけて徹底的にやってもらわないと、取り組む意味がない。

 最初のうちは、みんなぶーぶー言うんですけどね。研修を受けたいと相談に来る企業はだいたい大手です。参加メンバーはみんな会社の看板を背負ってイノベーションの議論をしようと思って、都心からわざわざやってくる。なのに、「石田が何も教えてくれない」と(笑)。

 でも、そんな人たちを、とにかく島の自然の中に送り出す。島を1人で周り、島の美しさを掘り下げてもらいます。そうしていると、島のいいところをどんどん発見するわけです。このようにして、外部からの情報が蔓延する社会でさびついてしまった、人間が本来的に持っている直感力を取り戻してもらうのです。

 ここは自然だけでなく島民一人ひとりも素敵です。子供たちは初めて会った人に必ずあいさつする。きょろきょろしていると通りかかった人が声をかけてくれる。だから、何か感じるものがあるはずなんです。

 なにせ、私がそうだったから。何も知らないでこの島に初めて来た時に、なんて素敵な島なんだろうと思いました。

 参加者によっては、島の美しさを考えている途中から、「自分が美しいと感じたものはこれじゃない、別のものだった」と変わるケースもあります。もちろん、最後まで同じだという人もいる。いろいろな人がいていいんです。期間中、参加者同士で質問をし合って、徹底的に自分が感じた島の美しさを深掘りします。