――セーフティな場とはなんでしょうか。

井尻:対話に参加する全員が安全な感覚が得られ、かつ安心した心持ちで対話できる場、という意味です。そのような場をつくるためにも、リラックスできるような仕掛けや演出を大切にしています。

 いくつかポイントがありますが、その一つは、グループごとに円になっていただくことです。椅子でも良いのですが、場所によっては床に座ることもします。円にする理由は、上下関係などを意識させないためです。円によって皆さん等しく参加者の一人だという意識が高まります。

 また、なるべく見学者はなくし、皆さんいずれかのグループに加わり、当事者として参加することを提案しています。その理由は、見ている人がいることで、参加者が「ほかの誰かに自分の発言を評価されたり監視されたりしているのではないか」という不安感を抱く懸念を減らすためです。「上司に観察されているかもしれない」などと感じると、自由に考え、発言することが難しくなります。

 ちょっとしたことではありますが、お茶やお菓子などのツールもセーフティな場づくりには有効です。AGC(旧旭硝子)の中央研究所では2017年1月から数回にわたり、ビジネス哲学対話を開催しました。社長や研究所長も交えた「哲学対話イベント」では、部屋の飾り付けをしていつもとは違う雰囲気を演出しました。社員の緊張を解くためにも、このような特別感の演出は大切です。

AGC中央研究所におけるビジネス哲学研修の様子(写真提供:アーダコーダ)
AGC中央研究所におけるビジネス哲学研修の様子(写真提供:アーダコーダ)

――社長と現場、ベテランと若手といった具合に、対話をする相手の立場が大きく異なると、いきなり対話をするといってもなかなか大変そうです。

井尻:おっしゃるとおり、企業で実施する場合はフラットな雰囲気づくりが重要になります。我々ファシリテーターが特に注意を払うポイントでして、だからこそ先程申し上げたようなセーフティな場づくりを前提として大切にしています。いったん対話が回り始めれば大いに盛り上がってくださるのですが、対話の出だしをどううまく進めるかという点については配慮が欠かせません。

 また、役職や立場の違いを意識させないよう配慮する、という話とは多少矛盾しますが、哲学対話は「違う人」がグループに入っている方が盛り上がる傾向があります。お互いの違いがあった方が対話の良い刺激となり、結果として対話がエキサイティングなものになるというわけです。

 手前みそですが、私たちのような「外部の人」が入ることによって、普段の業務とは異なる空気感が演出され、それによって哲学対話がより促されるという側面は大きいと思います。いつもの業務のメンバーだけでいきなり哲学対話をしようといっても、気持ちが切り替わりにくいからです。