――逆に言えば、効率性を重視し、プレッシャーにかられたなかで無理やりひねり出すという日常に埋没していては本質を見失うとも言えそうですね。

「生の言葉に触れる」ことの破壊力

――ビジネスの現場ではリモートワークが広がり、同僚との意思疎通をチャットでの連絡で済ませることが増えています。また効率性を追求し対面の会議を減らす傾向があります。生産性が低いコミュニケーションは極力減らすべきですが、忙しいビジネスパーソンこそ、潜在的にはビジネス哲学対話のような場を求めていると思うのですが、いかがでしょうか。

井尻:ファシリテーターとして皆さんの対話の様子を拝見していますと、ビジネスパーソンも含めて現代に生きる人は「生の言葉に触れる」機会を欲しているんじゃないかなと感じます。

 最近は技術、特にSNSなどの発達により、ネットで介される文字や回線を通じた音声で他者とやり取りすることが増えています。けれどもそうではなく、顔を突き合わせて相手の「生の言葉」を聞くことで、自分の中の何かが良い意味で破壊される、そんな力があるように感じています。

“企業内哲学者”が求められる時代に

井尻:多くの企業の方々にビジネス哲学対話を体験していただきながら、今後、企業内で哲学対話を促す役割、いわば「インハウス・フィロソファー(企業内哲学者)」を増やしていきたいとも考えています。

――先にお話に出ました、企業内におけるビジネス哲学対話のファシリテーターは、それと同種の位置づけと解釈できそうですね。

井尻:インハウス・フィロソファーは、ビジネスの現場で本質的な問いを投げかけ、現場で働く人が新たな視点やアイデアを得ることを促す存在です。また、一緒に問い、粘り強く考えることもサポートします。米グーグルやアップルがインハウス・フィロソファーの雇用を始めたという報道もありました。哲学の視点や考え方を持つ人がビジネス価値を生む役割として認識され始めた表れだと思っています。

 私たちは企業などで「哲学プラクティス(哲学すること)」に取り組む国内外の研究者や実践者と、国際学会などの場を通じて交流してきました。実際、海外ではグーグルやアップルだけでなく、インハウス・フィロソファーの活動の場が広がってきています。ここ日本でもいよいよ哲学が企業にも広まっていく段階に来たと見ています。