経営トップの積極的な姿勢がカギを握る

 吉野氏は予防、備え、フォローアップという3ステップを実施することと併せて、「経営トップがパワハラ防止に向けて明確なメッセージを社内に打ち出すことが大切だ」と語る。

 特に大企業の場合、社員はすでにパワハラに関する知識そのものは頭に入っているという人がほとんど。しかし、その知識が行動に反映されていない社員も少なくないようだ。

 吉野氏は次のように指摘する。「一概には言えないが、年齢層が高い上司の中には、パワハラの概念そのものは知りつつも『私はこのやり方で育ってきた』という思いを捨てきれない人も見受けられる。そういう人は、自分が経験してきたコミュニケーションパターンで部下を指導しがちだ。部下をなんとかしたいという上司の熱意と受ける側の若手との間のジェネレーションギャップが相まって、コミュニケーションエラーが生じやすく、そうした上司がパワハラ問題の起点になりかねない」

 また、人事労務などパワハラ対策に臨む部門にとって悩ましいのが、事業部門にいるいわゆる「ハラッサー(ハラスメントをする側)上司」は、しばしば「できる社員」でもあることだ。パワハラ事案として人事部門に相談が来たとしても、数字の達成に追われる事業部門側、また最上位で経営を統括する経営陣が、「この社員を処罰して現場から外すと、売上目標や利益達成、業務そのものに支障が出る」という観点にとらわれ、ついつい穏便な処置で収束させようとするケースも少なくないという。

 ただ吉野氏はこうした態度に対して警鐘を鳴らす。「法律遵守はもちろんだが、今は若手のビジネスパーソンを中心に、労働市場も社会もパワハラ行為に対して厳しい目を向けている。現場のパワハラ行為をうやむやにしていては、企業イメージの損失につながり、採用やリテンションにも大きく影響する。中長期的に見れば結局、数字上の損失として現れるおそれがある」

 だからこそ、経営者の姿勢が問われる。「企業の経営トップが『当社はパワハラを絶対に許さない会社です』とスタンスを明確にし、社内の各所でメッセージを打ち出している企業は、管理職も現場も、確実に雰囲気が変わってくる」と吉野氏は語る。

 経営者がスタンスを明確にすれば、現場ではパワハラを行った社員に対して降格・減俸などの規定を厳格に適用できるようになる。そのため、パワハラ事案が起きた場合にも曖昧な状態で済まされることが減り、社員間のモラルが向上する。モラルの向上度合いに従って職場でのパワハラ的な行為は自然と減るし、パワハラに対して過剰に反応する社員も減ると見込める。

 ただ、仮に経営者がパワハラ対策について関心が薄い場合はどうするか。吉野氏は相談を持ちかけてきた人事部門には、「経営会議の後に少し時間を取ってもらい、経営陣に対してハラスメントに関する勉強会を設ける」「社内報などでパワハラ防止を取り上げる特集を立て、そこに専門家との対談企画を用意し、経営者に登場してもらう」といった手段を提案する。「経営陣にパワハラ対策の重要性について、より自然な形で耳に入れることができる。その結果として、パワハラ防止に向けてより積極的に動いてくれる可能性が出てくる」(吉野氏)