まずベテランについては、業務の中でいわば「自分らしさ」とも言える概念を大切にしながら働くことで、心理的につらい時期を乗り越えてきたことが見えてきた。ここで言う自分らしさとは、ベテランへのインタビューで出てきた言葉を抜粋しながら命名したもの。「自分の性格が仕事にうまく役立っている」「自分の提案が旅客や同僚に受け入れてもらえた」「仲間とチームワークを発揮できた」といった、制約条件がある中でも自分の能力・個性を発揮できている、主体的・能動的に行動できている、職場でのつながりが感じられている、という3要素から成る。

インタビュー調査を通じて見えてきた、ベテラン社員が大事にしてきた「自分らしさ」という概念の概要(出所:東京大学大学院下山研究室)
インタビュー調査を通じて見えてきた、ベテラン社員が大事にしてきた「自分らしさ」という概念の概要(出所:東京大学大学院下山研究室)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方、若手を調べると、業務に携わる中で、「仕事のコントロール感がない」「仕事内容が自分に合っていない」「働きがいがない」といった要素を感じるとストレスが高まることが見えてきた。

 また、先に触れた自分らしさを感じる度合いは、「自分の感情に気づく能力」が影響しており、自分らしさを感じる度合いが低くなると、離職・転職に向けた意思が高まるという構図があった。逆に言えば、自分の感情に気づく能力が養われてくると、自分らしさを感じる度合いが高まり、離職・転職を検討することが減っていく。

 感情に気づく能力とは、自分が実際には悲しいのか、怒っているのか、といったことを自覚する能力のことである。先にも触れたが、感情に気づくことは、心身の健康を左右するものでもある。研究でこの点をさらに分析すると、仕事上の必要性から感情を抑えていたとしても、自分の感情に気づく能力が養われれば自分らしさを大事にできるようになるという関係が判明した。

 総合すると、ベテランは感情に気づく力を養うことによって、自分らしさを大切にでき、それが心理的健康の支えとなり、仕事に前向きに取り組めていることが分かった。また、自分らしさを感じられるようになるには、職場における周囲のサポート、特に上司のサポートが有効であることも判明した。

 これらの分析から見えてきたのは、職場の上司の重要性だった。若手グランドスタッフへのサポートや声のかけ方に工夫をすると効果的と考えられ、東大下山研究室では具体的な声がけの仕方をいくつか提案している。例えば「私はこういう時にはこういう風に考えたらお客様の役に立った」といったような成功につながるノウハウを共有するような内容だ。

 また、「仕事のコントロール感がない」と感じるような若手の気持ちに共感したうえで、個人の裁量が発揮できる仕事のポイントを伝えることも効果的と考えられるという。仕事のコントロール感のなさについては、業務の特性上受け入れざるを得ないためだ。

 感情に気づく力を養うことについては、心理の専門家をファシリテーターに立てて感情に目を向けることを体験したり、リラクゼーションのテクニックを学んだりすることなどが有効だとした。