ゆとりが生まれれば、従業員も会社もWin-Win

――「ワークライフバランス」の重要性が語られて久しいですが、松本さんがおっしゃったように、人はそもそも家事、睡眠、食事、家族との時間といった生活と切り離して存在することは難しいです。つまり、ワークライフバランスという言葉自体が、人間を「産業の一機能」としてしか捉えていない、アンバランスな事態を象徴していたのかもしれません。住宅メーカーの立場から見て、この新型コロナにより増えた在宅ワークは、一人ひとりのビジネスパーソンや企業のマネジメントにどんな変化をもたらしそうでしょうか。

山田:ビジネスパーソンがオンの場で高いパフォーマンスを出すには、家族との時間といったオフを充実させ、かつオンとの適切な切り替えが非常に重要です。また、家事はその性質上、人にとって一つのワークであると考えられますので、私たちは「ワークワークバランス」という言葉を提示しています。家事と仕事という2つのワークをより効率的にこなすことで、生活のゆとりが生まれ、そのゆとりがより高い質のワークを生むと考えられるからです。このゆとりは、ワークライフバランスで言うライフの部分と考えていただければ良いでしょう。

――仕事と家事の総体であるワークワークバランスの質を高め、人生のゆとりを創出すればするほど、結果として仕事のパフォーマンスは上がるということですね。

山田:そこから見ますと、在宅ワークをせざるを得なくなったこのタイミングは、企業側も従業員側もチャンスであるとも捉えられます。在宅ワークでは通勤時間がフレキシブルになり、別の行動に充てられるようになります。浮いた時間をワークに充て、さらには家事ワークを仕事の合間に済ませられるようにすれば、仕事を含めたワーク全体の効率性が高まり、ゆとりが創出しやすくなると考えられます。

 つまり、在宅ワークを機に従業員一人ひとりがゆとりを生み出せるようなアクションを採用できれば、従業員個人にとっても、また雇用側である企業にとっても良い結果をもたらします。そのため、企業側が住居空間の整備も含めて在宅ワークを支援することは、従業員個人そして企業にとって大きなメリットがあると考えられます。

 在宅ワークの推進を機に、企業の間ではオフィスの在り方、具体的には賃貸オフィスの契約を見直す傾向が強まっています。「固定席ではなくフリーアドレスで良い」「ミーティング用の場所が確保できれば大丈夫」といった具合に、オフィスの在り方が場所、広さ、形態などの面で柔軟に捉えられるようになれば、浮いたオフィスの家賃分を従業員の家賃補助に充てたり、在宅ワーク用の環境整備の支援に充てたりといった策も可能になるでしょう。

 昭和から平成にかけて、従業員が通勤してオフィスで働くというワークスタイルが当たり前になり、「職住分離」の傾向が進みました。しかし新型コロナによって「職住融合」が進むことになりました。これは住宅メーカーとしては非常に興味深い動きです。もちろん完全にオフィス勤務がなくなることはないでしょうし、業種や職種によって職住分離と職住融合の比率は変わるはずです。けれども、全体的な傾向としては職住融合にシフトすることは間違いないでしょう。

松本:先ほど山田が触れましたように、職住融合が進むというのは住宅メーカーとしては非常に興味深い動きなんです。平成の時代までは住宅から様々な機能が切り出されていたのが、再び融合することになったからです。例えば私が旭化成ホームズに入社した1980年代までは、住宅を設計する際に来客用の寝室を用意するのは当然、という価値観でした。ところが、来客様の寝室はホテルに、子供の勉強部屋は塾に、といった具合に次第に切り出されていき、賃貸住宅については極端な話、寝るだけの空間になりつつありました。ところが令和のWithコロナ時代になって、各機能が住宅に戻されるような流れになっています。

 Withコロナ時代においては、住宅、オフィス、店舗など、あらゆる空間づくりの常識を変え、この時代に合った新しい常識、新しい最適解を探ることが必要になってきたと感じています。これは人々の暮らしを支える住宅メーカーとして、非常にチャレンジしがいがあるテーマだと認識しています。また、同じように人々の暮らしに関わる他の業界の方々にとってもチャンスではないかと捉えています。