ビジネスプロジェクトはデザインから始まる

 企業がAIやデータサイエンスを扱える高度なデジタル人材を適切に処遇し、事業の現場でその能力を発揮してもらうには、どうすればいいか。SIGNATEの齊藤氏は、最初の一歩として「事業部門側に、ビジネスプロジェクトをデザインできる人材を育成することが欠かせない」と語る。

 齊藤氏のアイデアを踏まえて、ビジネスプロジェクトをデザインする人材のことを、ここでは「ビジネスデザイナー」と呼ぼう。ビジネスデザイナーは、どんなデジタル技術をどう業務に適応すれば自社の業務が改善するのか、あるいは新しいビジネスが成立するのかを考案し、デザイン(設計)できる人材である。

 ビジネスデザイナーはデジタル技術とビジネスの両方を知っている。ただし、デジタル技術については必ずしも、情報システムの設計やプログラミングスキルを備えていなくても良い。だが、各所に情報収集のアンテナを伸ばしており、「世に登場しているデジタル技術はビジネスにどんなインパクトを及ぼすのか」という視点で、デジタル技術の力を評価する能力を持っている。

 こうした能力を使って、ビジネスデザイナーはデジタル技術を活用したビジネスプロジェクトを企画・立案する。当然、コスト対効果を見積もるのも重要な仕事の一つだ。モノ作りを担うエンジニアや、顧客のことを知るマーケティング担当者、適用する分野の専門性が高そうな場合には社外の専門家にも話を聞くことになるだろう。

 ビジネスデザイナーが、「AIにより自社工場の品質管理プロセスを改善できれば、年間1億円のコスト対効果が見込める」というビジネスプロジェクトを企画・立案したとする。これだけのコスト対効果であれば、「そのプロジェクトに携わるAI開発者に対して1000万円の年俸を支払ったとしても十分見合う」ということが分かってくる。

 「このような算段でビジネスプロジェクトをデザインできれば、高額な報酬をデジタル人材に提示することについて、経営者も納得しやすくなるだろう」(SIGNATEの齊藤氏)。

 雇用される側であるデジタル人材としても、「自分の仕事がどんなビジネス上の価値を生むのか」が明確になるので、モチベーションを保ちやすい。技術系の人材にしばしばありがちな「技術に埋没して目的を見失う」という事態も防ぎやすくなる。

 ここで、企業におけるAIの活用状況について概観してみよう。世間ではAIの目覚ましい進化と威力が注目を浴びている一方、企業の業務においては、AI適用の成功事例はそれほど多くはない。

 理由の一つは、冒頭にも触れた「AI活用人材」が企業の現場にあまりにも少ないことが挙げられる。「AIをどう使えば現場の業務が改善できそうか」「どうすればAIをうまく新規事業に役立てることができるのか」。このような観点でAIをとらえ、実務にAIをうまく適用する方法を編み出せる人材が少ないのである。

 ここで言う「AIを適用した現場業務の改善方法や、AIを活用した新規事業を具体的に考えること」とは、まさに先に挙げたビジネスプロジェクトのデザインそのものであり、ビジネスデザイナーの仕事そのものである。