毎月50時間を資料作成に費やす

 一泉氏がゼミを始めたきっかけは、「お客さまから信頼され、『さすが』と言われる社員を育てたい」との思いからだ。「営業部員なら、一流企業のお客さまに向かって、給食の話しかできないのではダメです。経済の話はもちろん、社会的な問題やスポーツ、芸能まで豊富な話題を身につけることが大事なのです。また営業部員だけでなく、一般社員の教養を身につけることにも役立てたいと考え、女性を含めた間接部門の社員の出席も認めています」(一泉氏)

 確かに「一泉ゼミ」の資料を見れば、新聞やニュースなどすべての情報に目を通さなくても、話題作りができるようになり、社員が情報を読み解く眼を養う助けにもなる。

 毎回三十数ページもの資料を作るため、一泉氏は業務の合間をぬって、時には深夜まで新聞各紙や雑誌の全ページをめくる。チェックする雑誌も日経ビジネス、週刊東洋経済、週刊ダイヤモンドなどのビジネス誌から、週刊現代やベストカーのような一般向け週刊誌まで幅広い。さらに、情報収集の範囲は記事本文だけにとどまらず、掲載されている広告にまで及ぶというから驚く。「広告にも思いがけない情報があります。ちなみに、過去に日経の人材採用の特集広告に取引先の人事部長が掲載されているのを見つけ、すぐに電話をしたところ、それを契機に急速に親しくなったことがあります」

 副社長として過密なスケジュールをこなしながら、ゼミで紹介するテーマやネタを決めるために毎月50時間以上かけるのは、並大抵のことではない。「資料作成のエネルギーは、部下に勉強してほしいという熱意と、一営業マンとしての自分自身の勉強のためでもあるのです」(一泉氏)

 このような学習は社員が自己研鑽すべきではないか、という意見もあるが「この研修を時間外や土曜日ではなく、平日の就業時間中に実施するからこそ、当社の人材育成に対する熱意を社員に示すことができるのです」と一泉氏は語る。

 「一泉ゼミ」の講義の特徴は、あるテーマについて議論が分かれる時に、必ず両方の論を取り上げることだ。その記事がメディアに取り上げられている背景を知り、さらに文字になった情報を無条件に信用したりしないよう教育しているのだ。こうして、2008年にゼミを開始してから一泉氏の薫陶を受けた数多くの社員が幹部へと成長している。

 面白いのは、資料の最後にあるテストだ。「粧す(めかす)」「綻ぶ(ほころぶ)」など難読漢字テストと穴埋め問題が20問。穴埋め問題は、当日のゼミで紹介された記事や解説の中から出題される。10分ほどかけて各自が回答したあと、答え合わせがある。高得点を取った参加者には、一泉氏の手から図書カードが渡される。社員のモチベーションも上がろうというものだ。

 「こういう研修をしているという話を社外ですると、『一泉さんは人事部のご出身ですか?』とよく聞かれるんですよ」と一泉氏は笑う。「43年間、営業しかやってこなかったんですけどね」

高得点者に図書カードを渡す一泉氏
高得点者に図書カードを渡す一泉氏