うつ病と双極性II型障害の治療方法・薬は全く違う
そしてさらに悩ましいのは、うつ病と双極性II型障害では治療方法が全く違うという点です。
うつ病では、うつの症状を改善させるための治療を行い、抗うつ剤を用いますが、双極性II型障害では、躁とうつの波をコントロールする治療が必要となり、その時には抗うつ薬ではなく気分安定薬を用います。
つまり、正しい診断ができていなければ、当然、正しい薬は処方されておらず、治療が適切に行われていないことになります。さらに厄介なことには、双極性障害の患者が抗うつ薬を使っていると、気分の波がかえって大きくなることも多いのです。
実際、双極性II型障害の患者に対して、「この人はうつ病だ」と誤った診断を行った主治医が、抗うつ剤をずっと出し続けているというようなことは非常に多い。最悪の場合、症状を悪化させてしまうこともあります。
双極性II型障害を診断するには「現在、軽躁状態である、あるいは過去に軽躁状態があった」ことを確認する必要があります。
しかし、躁状態が短期間で軽度なため、短い診察時間内に主治医が気づくことは、まずできません。
主治医が双極性II型障害と分からないまま、気づかないまま、うつの症状が改善した段階で「復職可」という診断書を書いている場合があるわけです。
復職先の産業医も、本当の病気に気づくのは難しい。そのため、復職後、いずれ軽躁状態が現れ、その後、再びうつ状態がやってくるという病相を繰り返し、患者は何度も休職することになります。
再発を繰り返す場合、一度、疑ってみてほしい
ここで人事関係者の皆さんにお伝えしたいのは、「ひょっとすると?」という視点を持ってほしいということです。
うつの症状の裏側に、こうした別の病気が隠れている可能性があることを知っていただき、再発・再休職を繰り返す人に対しては特に、疑ってみていただきたい。
なぜなら誰かが「背後に、別の病気があるのでは?」という疑いを持たない限り、背景疾患は見つけられないからです。
疑って初めて、双極性かどうかを調べる検査をしたり、過去に躁状態があったかどうかなどの情報を集めて、ようやく正しい診断にこぎつけられます。
医師よりもその人と接する時間が長い周囲の人や人事担当者が疑ってみること、本人の軽躁状態を把握することが、正しく病気を診断する助けになるのです。
軽躁かも? と疑ってみるべき変化のポイントは次のようなものです。
■こんな変化に気づいたら、軽躁状態かもしれないと疑ってみてください。「軽躁状態がある」「あった」ことを確認できると、双極性II型障害という診断につながります。
【いつもより】
・声が大きい ・言葉の数が多い ・話が長い/話の内容が大風呂敷
・話し続ける ・やたらと明るい ・動きが速い
・話しかける相手が多い ・メール数が多い
・電話をかける回数が多い ・活動が活発だ
・人の話を聞かない ・予定外の行動が多い
・お金をたくさん使う ・イライラしていることが多い
・短睡眠時間でも活動できている ・怒りっぽい など
ごく短期間であってもこのような変化が見られたら、その時期が双極性II型の軽い躁(そう)状態である可能性があります。