印刷事業を基盤にエレクトロニクスやエネルギー、ライフサイエンスなど多様な分野に業容を拡大するなか、各事業を支える人材を戦略的に調達。採用全体の4割をキャリア採用目標とし、人材ポートフォリオを活用して全体最適を狙う(写真は稲垣純也)。

――2022年4月に情報コミュニケーション部門に加えて人的資本部門統括専務に就任なさいます。

宮 健司氏(以下、宮):これまでは情報コミュニケーション部門統括、人事本部、人財開発部、IR・広報本部、ダイバーシティ推進室&総務部を担当していましたが、この役割自体が大きく変わるわけではありません。情報コミュニケーションという事業部門以外は、いわゆる本社管理部門ですが、管理がミッションではなく、人に投資して新しい価値を創造していくという意識に変えていきたい。それを明確に打ち出すため、人事本部、人材開発部、ダイバーシティ&インクルージョン推進室担当から「人的資本部門統括」となりました。  

 現在、健康や人材育成、人権などの各要素を整理して「人的資本ポリシー」を作っています。これまでも、それぞれのテーマに関して社内外に宣言すべきことを憲章や宣言として打ち出してきました。これらをすべて人的資本に関わるものとしてまとめていきます。

宮 健司 氏 大日本印刷代表取締役専務 情報コミュニケーション部門統括、人的資本部門統括、IR・広報本部、総務部担当
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宮 健司 氏 大日本印刷代表取締役専務 情報コミュニケーション部門統括、人的資本部門統括、IR・広報本部、総務部担当
1978年大日本印刷入社。香港駐在、新規事業開発部門長などを経て2003年に人事部長、2010年に役員、2014年に常務役員、2018年常務取締役、2020年に専務取締役。2021年に代表取締役専務に就任し、情報コミュニケーション部門統括、人事本部、人財開発部、ダイバーシティ&インクルージョン推進室、総務部、IR・広報本部を担当し、2022年4月より現担当
 

社内“複”業で組織の壁を越える

――印刷事業を基盤に包装、建材、情報技術、エレクトロニクスやエネルギー、ライフサイエンスなど多様な分野に事業を拡大しています。こうした経営戦略を支えるため、どのような人事戦略を展開していらっしゃいますか。

宮:中核となるのは、社内外の多様な人材に対し、当社への評価や共感を高め、人的資本を最大化することです。コロナ禍を機に、雇用の流動化が進んでいます。日本でも「在宅勤務ができるなら、東京に住まなくても地方で仕事ができる」と考える人が増えています。社外の優秀な人材を引きつけ、社内の人材のエンゲージメントも強化するような人事制度の再構築が必要です。

 2021年から大日本印刷(DNP)流の目標管理である「DVO制度」をスタートさせました。Vは価値(バリュー)を指し、「社会に新しい価値を生み出す」ことを目標にします。米国で目標管理評価制度が生まれたときはマネジメントツールだったのですが、日本では評価の面ばかりがクローズアップされ、成果主義の手法のように扱われるようになってしまいました。これを正して、価値につながる目標設定とその達成について、上司と部下がコミュニケーションをとるプロセスを通じて人材を育てていきます。具体的には1on1を徹底していきます。

 ジョブ型雇用を意識した制度ではありますが、完全にジョブ型にかじを切ることは考えていません。ジョブ型を巡っては二元論的な考え方が主流となっていますが「メンバーシップ型かジョブ型か」ではなく、どちらの良さも取り入れたハイブリッドな仕組みを目指しています。

 自律的なキャリア形成を重視し、副業・兼業も認めており、現在約80人が制度を利用しています。副業は行政書士、会計監査、税理士業務、中小企業へのコンサルティング、コーチング講師、ソフトウエア開発、スマホアプリ開発、SNSオンラインサロンの運用など多岐にわたっています。3Dプリンターを使用した商品開発や、恐竜に関するコンサルティング業務、eスポーツ選手としての大会参加・運営などの変わり種もあります。

 一方で、他社の社員が副業としてDNPの仕事に携わる例も増えています。多いのはIT系の開発や新規事業立ち上げです。人材争奪戦が激しい職種なので、外部の人材に活躍してもらえるのはありがたいですね。

 社内複業もできます。所属部門および兼務先部門の承認を得て、就業時間の20%をDNPグループ内の他部門を兼務できる制度を作り、2021年度は約30人が利用しました。

 社員が多様な仕事を経験する制度はこれまでもありました。20年ほど前から社内留学制度があり、1年間など年限を切って他部署の仕事を経験したうえで元部署に戻り、留学時の経験を生かせるようにしていました。ただ、あまり利用者はいませんでした。一方、社内複業は社内留学よりもずっと活用されています。残念ながら、複業は自発的な動機でやるからでしょう。

 自律的なキャリア形成の仕組みとしては社内公募制度もありますが、希望者全員がその仕事に就けるわけではありません。社内複業はもっと柔軟で、興味があってやってみたかった仕事を試しにやってみることができます。研究開発センターの社員がコーポレートコミュニケーション本部で複業し、社内外でのオープンイノベーションに参加して新規の研究テーマを考えるといった例が生まれています。

 新しい働き方を実現する施策は、コロナ禍を機に加速度的に増えています。テレワークを推奨し、週の半分以上テレワークする社員には月3000円の手当を出しています。3000人が利用しています。ワーケーションも認め、家族と旅行に行った先でリモートで会議に参加した場合も、勤務としてカウントされます。これを可能にするため、時間単位で有給休暇を取得できるよう就業規則を変更しました。