見当違いの対応では、問題解決につながらない

小川教授:発達障害の特性を知らずに、不得意な仕事を与えた場合は期待した結果が出ず、仕事を頼んだ側は「困った」「役に立たない」「怠けている」「やる気がない!」といった反応や評価をしてしまいます。

 さらに、上司に発達障害の障害特性への理解がなければ、そうした現場からの反応や評価から「あの怠け者をどうしたら直せるか」「やる気のなさをどうするか」といった見当違いの対応に終始しかねません。

 産業医による本人との面談を行っても、専門が異なる先生の場合、発達障害の特性やトラブルが起こった時の具体的な状況を把握できていないと、本人から「自分は一生懸命、資料を作ったのに遅いと怒られたんです」という情報しか入らず、「それはひどいね。傷つくよね」といったカウンセリングで終わってしまいます。これではまったく問題解決につながりません。

 産業医に障害特性への理解があれば、「その問題は、もしかしたら本人にこういう勘違いがあるのかもしれない」「本人なりのロジックで、こういう点にこだわって考えているのかもしれない」と、対応を変えることができます。

 「あなたは一生懸命、資料を作ったのですね。頑張りましたね。でも、今回の仕事はとても急ぎの仕事だったから、上司の方は困ったんですよ」と説明することで、本人も上司に誤解されていたと気づくことができます。

 職場の上司や人事担当者、産業医の方が発達障害の特性について基礎知識をもって対応することが、第一段階として望ましいと思います。

知りたいのは背景にある「本当の原因」

五十嵐Dr.:私は産業医として、発達障害の社員について職場の相談も受けています。精神科の産業医であっても、本人の障害の度合いがどの程度なのか、診察室で30~40分間話を聞いても本当のところは分かりません。

 おそらく、本人と一緒に仕事をしていないと、仕事内容や職場環境、人間関係など、職場と本人の「困りごとの本質」は分からないのではないかと思います。でも、昨今はセキュリティーの問題から、産業医であっても職場への立ち入りは制限されています。

 私が欲しいのは「職場では、こういうことに困っている」という情報です。

 それは本人だけではなく、また同僚や上司の見方だけでもなく、仕事内容や職場環境なども踏まえたうえで、トラブルの背景にある本当の原因を、外部の産業医である私にも分かるように“翻訳して”伝えてほしい。これが分かれば、職場が困っていることを、我々の治療の中で医学的に“翻訳して”本人に伝えることができます。

小川教授:なるほど。

五十嵐Dr.:私はその“翻訳者”こそが、企業在籍型ジョブコーチではないかと考えています。小川先生は発達障害がご専門で、ジョブコーチ養成機関の理事長もされています。ジョブコーチの役割について読者にご紹介ください。