世界を震わせた新型コロナウイルスの脅威は、企業経営や組織運営にも変革を迫ることになった。テレワークを導入し、出社しなくても仕事ができる環境を整備する企業が急増するとともに、紙と人手に頼っていた業務をIT化する必要性が高まったのだ。人事業務改革の先進企業2社の人事リーダーが、今回の危機にどう対応してきたか、そしてウイズコロナ、アフターコロナにおける働き方をどのようにデザインしていくかを語り合った。
従業員の意識と行動の変容でテレワークが一気に浸透
KDDIとユニリーバ・ジャパンHDの両社ともに、今回のコロナ禍以前からテレワークを導入済みだ。モデレーターの小林暢子が「新型コロナウイルスの感染拡大によって、全社的な働き方にはどのような変化があったのか」と尋ねると、KDDIで人事本部長を務める白岩徹氏は「本当の意味での働き方改革が推進できた」と答えた。

同社は2009年4月に「テレワーク勤務制度」を導入し、同年11月には利用部門を全部門へ広げている。制度や基盤はいち早く整備していたものの、これを活用する組織や人材はほんの一握りだったという。同社に限ったわけではないが、いくら「生産性が上がる」と説明されても、既存の働き方が不便だと感じていなければ、新しい制度や基盤を利用したいと思う人は少ないのが現実だろう。働き方改革の牽引役を担っている人事本部では、テレワークが進展しないことが悩みの一つだったという。
しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大するとともに従業員の意識と行動が変わってきたという。これには人事本部の機動的な取り組みが大きく貢献している。同社は、政府が「新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置する前日の1月27日に「KDDI対策本部」を設置。3月8日には全社的な在宅勤務に向けてテレワーク設備を増強。4月7日に政府が緊急事態宣言を発令した際には「基本、会社に来るな」(白岩氏)という旨の勤務体制を社内に通達している。従業員のメンタルケアのために「カウンセリング特別窓口」も設置した。
こうした取り組みの結果、テレワークを利用する従業員の割合は2月には2割にとどまっていたが3月には6割、4月には9割にも達し、7月末以降はテレワークの割合が7割を維持するように社内に通達しているという。 白岩氏は「人事本部では現在、ニューノーマルを実現するためのHRテックを導入することをコミットしている」と展望を語る。