「雇用を守って倒産」では本末転倒

 一方で課題となるのは、成果とのバランスをとることだ。新型コロナの状況下では、社員の安全と雇用を守っても、景気の落ち込みなどで業績悪化ともなりかねない。ひたすら雇用を守ることに固執して、経営が不安定になっては本末転倒と言える。人材が資産であるならば、その活力を最大限に生かして、業績を高める。そして「仕事の成果」で個々人を評価するのが理想の形だろう。運用の大切なポイントは、「一律」の発想から抜け出すことだ。

 これまで日本企業では「入社年次と勤続年数別に一律カット」、「課長以上に一斉に支給」という“団体運用”が多かった。しかし、これからはリモートワークを個々人がそれぞれの自宅で行っているように、待遇・報酬も個別に細かく“資産価値”を見ることが大切になる。

 実際にそうした考えを支持する動きは強まっている。米SEC(証券取引委員会)が「人材資本管理(ヒューマン・キャピタル・マネジメント)」に関する情報開示強化を進めているのだ。その内容は、従業員の待遇や福利厚生、配属・昇進の仕組み、また人権への配慮、さらにサプライチェーンのあり方など幅広い。機関投資家や学術界からも企業が抱える人材についての開示強化を支持する声は大きい。

「一律」を抜け出すのがCHOの任務

 そこで新しい報酬制度として、SARのような業績連動評価や、ストックオプションといった自社株購入権はヒントを与えてくれる。人件費を単なるコストと見なすのではなく、かつ資産といってもその価値は働きによって常に変動する点を加味する。そこから報酬を業績や株価に連動させて、時価を反映しようという手法につながる。上場企業には、従業員持株会を通した自社株付与を取り入れている会社も多い。だが、一般には勤務年数や役職に従って、これもまた「一律」にルールを決めているところが多い。そうした点を変革できるかどうかが、新型コロナ後の企業の競争力を決める要因になるだろう。

 英エコノミスト誌によると、コロナ後の働き方と評価の仕方、そして「人材資本管理」の情報開示強化の流れを受けて、有能なCHO(最高人事責任者)の引き抜きが増えているという。

 CHOにとっても、人事担当者にとっても、仕事の重要性とやりがいが高まる一方で、“資産評価”の仕組み作りと運用の成否を強く問われる時代が到来する。

 舵取りを間違えるとどうなるか。ゴーン事件はある意味でコロナ後の日本企業を映す反面教師と言える。

 (酒井耕一=日経ESG発行人)

 後世、この2020年が日本企業における働き方改革の転換点になったといわれるでしょう。「with/afterコロナにおいて、元には戻れない」――テレワーク浸透によって人材育成のあり方、雇用制度の見直し、オフィスの存在意義など、コロナ禍の企業経営では人材戦略の実効性がますます注目されています。

日経BP総合研究所では、7/14(火)15(水)の2日間で「CHOsummit2020 Summer~人と組織の変革に挑む」を開催します。本サミットでは、企業トップや有識者の講演に加え、経営に資する人材戦略に責任とスピード感を持って施策を打っていくCHO/CHROが登壇するパネルディスカッションを実施。次世代リーダー育成、コロナ禍で変える働き方、ESG経営における人的資本、人事部門の新しい役割であるHRBPなど、最新のテーマにおける課題と解決策を議論します。オンラインのライブ配信で実施し、講演とパネルディスカッションでは視聴者の方からの質疑応答も予定しています。