主役は現場、人事部門はサポート

 ではジョブ型で要員計画を進めるためには具体的にどうするか。重要なポイントは、ジョブ型の発想で戦略に基づいて必要な人員構成を決めることは、事業サイドでないとできないということだ。一方、メンバーシップ型においては、入社した人が定年までいることを前提に、ぐるぐるとバランスよく異動させるゼネラルローテーションを採用していることが一般的で、この場合は、人事が一定程度需給をコントロールする必要がある。すなわち、ジョブ型は戦略・ビジネスと直結するので、事業部門が人的資源の調達を主体的に担うことが不可欠だが、メンバーシップ型においては、内部公平性の観点から、人事部門が間に入って全社調整を行う必要があるということだ。その結果として、人事が中央集権的に力を持ちやすい構造になるし、人事が人的資源の調達に責任を負う構造になりやすい。

 これが長く続き、事業サイドは「とにかく人をくれ」というだけで、自分たちの戦略の実現に必要な人について、質×量の観点から議論するという習慣を持たないまま来てしまったケースが多い。結果的に、戦略を実現するために必要な経営資源である人に関して、戦略とその調達計画を連続して考えることができなくなっているのである。そういう会社は、毎年の要員計画の議論の中でも、「うちは忙しくなったからあと何人くれ」という質の議論が不在の量の議論に終始し、ヘッドカウントの取り合いをするだけの人員調整を繰り返していることが少なくない。

 ジョブ型であらかじめ必要な人材の質×量×単価を決めておけば、このプロセスは大きく変わる。ジョブ型で仕事の要件と価格を決めておけば、社外からでも社内からでも同じプロセスで人を調達できるようになる。社内で調達できなければ、社外から採りましょうと割り切れる。また、社内からの調達も、社外の人を採用面接するのと同じように、ジョブポスティングして、面接して採用を決めればよいということになる。多くのメンバーシップ型企業では、既にいる人の奪い合いを質の観点なく議論せざるを得ないので、「うちはエースを一人出すから、中レベルの人材を3人くれ」といった話になってしまう。結果、戦略とかけ離れた権力闘争になり、本質的ではないことに相当多くのエネルギーを割く羽目になる。

 分かりやすくするために財務に例えると、新規投資の際にはいつまでにいくら調達するかをしっかり決めたうえで、新規に借入をするのか、過去に稼いだキャッシュで賄うのか、どういう資金調達が可能で、どういう質のお金を調達するべきかという観点から議論を尽くすはずである。ところが人の話になると、そうした視点が抜け落ちて、ひどいケースでは、「これから新規事業をやるから人が欲しい。ざっくり若手を10人」といったリクエストになってしまう。さすがにこれは極端だが、いずれにしてもビジネスサイドが主体になって、戦略から逆算して要件を定義し、最適な人材調達スキームとそこにかけるコストを議論していかなくてはいけない。

 このような前提に立つと、ジョブディスクリプションも本来はビジネスサイドが作るべきという結論になるはずなのだが、ジョブ型の導入に当たっては人事部門が社内でいろいろインタビューしてジョブディスクリプションを準備するケースも多い。もちろん、導入・運用において様々なサポートは必要だが、ジョブディスクリプションは一過性のものではなく、戦略や事業の変化に応じてアップデートする必要がある。人事部門では、更新のアラートを出すことまではできても、戦略に応じてタイムリーに更新することまでは困難で、そのような状態が続くと、せっかく作ったジョブディスクリプションがすぐに陳腐化してしまうことは容易に想像できる。こうなると、サステナブルな仕組みにならない。

 そうならないためには、繰り返しになるが、メンバーシップ型とジョブ型には人の出入りの考え方に違いがあり、エコシステムとしてそもそも違うことを念頭において、人事制度だけでなく、人のフローや組織内の機能の持ち方、事業と人事の役割分担まで踏み込んで考えていかなくてはいけない。そこまで全体像をきちんと理解したうえで、ジョブ型にすべきなのか、するとしたらどのようなペースで進めるべきかを議論すべきだ。