布施氏は「仮説・実行・データ」のプロセスを意識することが、企業組織のパフォーマンス向上につながると強調する。というのも、組織のメンバー全員が今以上の成果を出すためにどうすればよいのかを考えるようになり、それを実行した結果を各々が次の挑戦に生かすようになるからだ。そして、このサイクルが短期間で回るようになる。このような指導を行った企業の多くが、組織パフォーマンスを高めているという。

慶應義塾大学野球部を指導する布施氏(出所:Tsutomu FUSE, PhD Sport Psychology Services)

「逆算思考」で大きな目標に近づいていく

 布施氏は、組織や個人の成長を促すためには、目標の立て方にも工夫が必要だと指摘する。同氏が提唱しているのは「逆算思考」というアプローチだ。

 目標の設定方法には大きく2つあるという。一つは、現在のスキルや環境などを基準として「今できること」を積み重ねていく「足し算思考」だ。現在、多くの企業が人事評価で採用している「目標管理制度(MBO)」も、これに当てはまるだろう。

 足し算思考の問題は、目の前のことしか見えなくなる点だ。例えば、組織的に「今できること」として「原価の低減」という目標を掲げたとしよう。大量生産や稼働率の向上を促進することで原価は下がるかもしれないが、その結果として在庫が積み上がって利益を圧迫するようなケースもあり得る。本来重要である「なぜ、その目標が必要なのか」ということを考えずに行動すると、せっかくの努力や取り組みがムダになる恐れがある。布施氏によると、足し算思考であるために、将来、仕事に必要となるスキルを習得できない人が多いという。

 一方の逆算思考は、まずは大きな目標(未来の自分、なりたい自分)を設定して、現状の自分に足りないものを抽出するところからスタートするアプローチになる。目標に対して現状の自分がどれくらい手前にいるのか、何が足りないのかといったことを把握して、「すべきこと」と「する必要性が薄いこと」を明確にする。ここで抽出した「すべきこと」を順序立てて中間目標として設定するのだ。初めから大きな目標だけがあると、諦めてしまう人も多いかもしれないが、現状の自分で手が届く中間目標があれば、これを達成することで大きな目標に一歩ずつ近づいているのが実感できるし、これがモチベーション向上にもつながってくる。

 スポーツの世界では、一流選手を筆頭に逆算思考が当然のアプローチ法として定着しているという。布施氏は「ビジネスの世界でも、個人や組織を成長させるためには、逆算思考が必要不可欠な取り組みとなるでしょう」と語る。

 ただし、これを組織的に実践するには、組織ごとのリーダーの役割が重要だと指摘する。企業の場合、大きな目標は中期経営計画などの数字として降りてくる。これを個人ごとの行動に落とし込まなければいけないからだ。同氏は「どのような理由で、どういう行動が必要かを自分の言葉で語りかけて腹落ちさせることがリーダーにとっての重要な役割です」と説明する。