相良氏と布施氏。ラグビー部の練習場や選手の寮がある早稲田大学上井草グラウンド(東京・杉並)にて
(撮影:稲垣 純也)

「チームがばらばらの間も思いが離れないように」

――ラグビー全国大学選手権で優勝した前月に、決勝の相手だった明治大学に大敗しました。危機感を覚えたのではないでしょうか。

相良:私は、この時に負けたのはある意味、良かったんじゃないのかなと思っています。明治との差が分かったからです。技術的な面では、それほど差がないのですが、この試合では相手の方が当たり前のことを当たり前にできていました。例えば、自分のポジションに戻ることはラグビーでは当たり前のことですが、この動きが明治の方が速いといったことです。

 当たり前のことができていなければ、チームの誰かが気づいているはずです。気づきを共有する風土が醸成されてきましたが、まだ完全に腹を割ったコミュニケーションをできるまでには至らなかったのです。例えば、ミスをしても誰も文句を言えないような優れた選手が、この試合中にミスをしました。一瞬、手を抜いたように見えましたが、チームの誰も指摘できなかった。全国大学選手権で優勝を目指すのに技術面では心配がありませんでしたが、このようなメンタルの課題を克服することが必要だと考えました。ここで布施さんが、ある仕掛けを打ってくれました。

布施:私は普段、選手たちに考えさせて自ら答えにたどり着くというような指導をしています。こうしたスタイルでも、何カ月かの時間をかければ優勝できるところまで持っていくことは可能なのですが、なにしろ残り時間が少なすぎる。1カ月くらいしかありませんでしたからね。

 そこで、キャプテン経験のある若いコーチに手伝ってもらって、このプロセスを加速することにしました。選手たちの本音を引き出すために、事前にコーチと打ち合わせて、普段なら絶対に言わないような意見を投げかけてもらったのです。コーチが意を決して「俺だったら手を抜いているように見えたら、ちゃんと言うけどね。ここをあいまいにしていたら勝てないよ」と話すと、1人の選手が本音を語り出しました。すると、普段は話し合っていないような本音の会話が続いたのです。

 通常のミーティングでは、誰も相手の気に障るような意見を口にしてはいなかったのですが、この時は試合中のある場面でタックルに行かなかった4年生に対して、3年生が「理由はいろいろあるとは思うんですけど、次はタックルに行ってくれるんですか」と尋ねました。すると、先輩が「もちろん、行くよ!」と応えるといったように、本音の会話が続いたのです。このミーティングは日付が変わる時間まで続きました。その結果、気づきの共有が進むことでチームが進化し、決勝で明治大学を破って優勝することができました。

――コロナ禍で緊急事態宣言が出されている間、選手たちは普段のような練習ができなかったと思います。どのような生活を送っていたのでしょう。

相良:4月の頭から6月中旬までチームは解散状態でした。この間、それぞれの学生が自主トレに取り組みました。リーダー陣の提案で「Zoom」を使ったオンラインミーティングも実施しています。「チームがばらばらの間も思いが離れないように」との思いを込めていたそうです。

 オンラインミーティングでは単に話し合うだけでなく、去年の試合や練習試合、海外チームの試合の映像を見ながら、気づきを共有していたといいます。学生たちはみんな、「不自由はあるけど、いつかは再開できる。その時に向けて備えておこう」との思いを持ってトレーニングに励んでいます。