愛知県内の医学部を持つ四大学が集まり、医師派遣問題について協議を開始するという。本当によく動きだしてくれたと思う。私は病院も大学もよく知っているので、四つの大学が集まって医師の適正配置という人事問題を話し合うということが、いかに大変なことかがよくわかる。

大学の医学部の臨床教室は、かの有名な医局制度によって成り立っている。医局制度とは、それぞれの診療科を単位として組織された医局という医師の集団が、教育、研究、診療という大学での活動を運営・管理している状態のことを言う。各医局は、独自のルールを持つ独立国のようなもので、お互いに干渉しないという不文律がある。

医局制度は、大学という貸しビルに各医局がテナントとして入居しており、教授は社長さんのようなものと例えられることもあるが、確かにある一面をとらえている。この医局が地域の病院の医師の供給源となっているが、〇〇病院の△△科は□□大学の××科の医局からの派遣と表現されるように、複数の大学の混成で医師派遣が行われることはない。大学閥というか、医局閥というか、に強く支配されているのである。

医師を派遣している病院のことを関連病院と呼ぶが、関連病院を多く持つ医局ほど力も強い。大学間の協働の難しさがわかればよいので医局の話はこれくらいにしておこう。

さて、問題を解決するためには欠かせない条件がある。第一に当たり前過ぎることだが、解決すべき問題があることである。地域医療の問題の深刻さについては説明の余地がない。

第二に、その問題を解決しなければならないと思うキーマン、この場合は医学部の、がいて、その人たちが働くことである。愛知県の地域医療問題は、この段階まできている。

ここまできたら、あとは関係者が本気でやるかどうかだけだ。医療の崩壊を何のために防ぐのかは、議論の余地のないことで、その処方箋(しょほうせん)も難しくはない。難しいのは処方箋どおりやりきるかどうかである。「どこの大学かなんてどっちでもええから、ちゃんとした医者にかかりたいだけだわ」。地下鉄の中で聞いた、六十すぎのおじさんたちの医療議論を思い出したが、患者さんにとっては大学や医局の都合や面子(めんつ)なんて関係ないのである。

(中日新聞 2009年6月30日掲載「長寿の国を診る」より)