中央社会保険医療協議会(中医協)によって、二年ごとに行われる診療報酬の改定作業が終了し、厚生労働大臣に答申された。診療報酬とは、普通の人には分かりにくい言葉だが、医師にかかった時の初診料いくら検査料いくら、というあれである。わが国では、医療行為への対価は原則として国がすべてを決めている。その原案を決めているのが、中医協である。この中医協のあり方については、二年前に大改革が行われた。改革されたことにはいろいろあるが、最も大きなことは、医療費の全体枠については政府が決定し、その総枠のなかで、それぞれの診療行為の対価を決めることに、中医協の役割を限定したことであろう。

今回は、高齢者が増えて医療の需要はますます増えているのに、医師の確保もできずに地域医療が崩壊しそうだ、これ以上医療費を減らすと本当に医療が危なくなるのではないかという社会的背景のなかでの改定であった。国は財政難を理由に「聖域なき改革」のもとに医療費を抑制し続けてきたが、さすがにこれ以上減らすと危ないと考えたのか、全体ではマイナスだが、薬剤費等を除いた医療技術等の本体部分に関してだけは、0.38%のプラス改定と決めていた。わずかではあるが、プラスはプラスだ。

さて、プラス分をどうするかである。危ないのは病院で、その最大の理由が医師の病院離れである。ここを何とかしなければならない。開業医と病院勤務医の所得差まで調査して、病院に手厚く配慮しようという空気は、世論まで高まっており、中医協の議論もその方向に進んだ。

それでは、今回の改定の結果は、病院の崩壊を防ぐのに、どれほどの影響があるのか。医療は医師がいなければ何ともならないが、どんな条件なら、医師は病院に勤務していたいと思うだろうか。第一に、自分の専門技術が必要とされ求められていること、第二に、その能力が十分に発揮できるような職場環境があること、第三に、その能力や努力が正当に評価してもらえることである。

改定では、病院勤務の医師が本来の業務に集中できるように、医師の本来業務でない業務を事務にまかせるようにしたり、不足が指摘されている産科医療や小児科医療の充実に特別な配慮がなされたりしたが、それは病院を辞めたくなるのを止めるほどの待遇の改善につながるのか。とてもイエスとは言えないというのが正直なところで、勤務医の待遇が大きく変わることは期待できないだろう。

では、今回の改定の意味は何なのか。私は、地域の病院と医師を応援しよう、という機運が日本中に広がったことが一番だと思っている。お金はもちろん大事だ、だが、それよりも地域の医療を一緒に守ろうという気持ちが医師に伝わることの方がもっと大事だと思うのである。

(中日新聞 2008年2月29日掲載「長寿の国を診る」より)