イスラエル政府から医療大麻の生産・販売の認可を受けた業者は8社あるが、そのうち最も古い「ティクン・オラン」(以下、TKO)に取材を試みた。

TKOは医療大麻によって病気の痛みや苦しみを軽減し、社会に貢献することを目的に2006年に設立された。最初の4年間は顧客(患者)に無料で提供し、それ以降は有料にしたが、現在5000人近い顧客をかかえ、国内最大の規模を誇る。乾燥大麻に加え、大麻成分入りのオイルやクッキー、ドリンクなども販売している。店の中に医療大麻の使用法の相談クリニックが設けられ、顧客はそこで看護師から自分に合った治療法を学べるようになっている。

顧客の約2割は65歳以上の高齢者だが、医療大麻を使った高齢者の健康増進、QOLの向上は大きなテーマだという。TKOは前述のハドリンを含め数十カ所の老人ホームの入居者に医療大麻を提供し、同時に使用者の病気や症状、治療効果などのデータ収集と分析にも力を入れている。

調査は現在進行中だが、すでに興味深いことがいくつかわかってきたという。1つはハドリン老人ホームの調査でも見られたが、医療大麻の使用で処方薬の服用量が減ったという人が多いこと。高齢者は高血圧、心臓病、胃腸障害、関節炎などの慢性疾患にかかりやすく、薬を大量に使用しがちだが、それを避けることができるのだ。

もう1つは経管栄養法の問題である。年をとって口から食べられなくなると、消化管内にチューブを挿入して栄養剤を注入する経管栄養法を選択する人が少なくない。しかし、TKOの調査では、医療大麻を使用することで食欲が増し、食事ができる期間が延び、経管栄養法への移行を遅らせることができるという。

ベポライザー(喉や肺に優しい喫煙具)で医療大麻を吸飲する入居者
ベポライザー(喉や肺に優しい喫煙具)で医療大麻を吸飲する入居者

米国でも医療大麻の使用者が急増

医療大麻を使用する高齢者は米国や欧州でも増えている。米国では1996年にカリフォルニア州で初めて医療大麻の使用が合法化され、現在は23州に広がっている。21歳以上の大人で医師の診断書があれば、誰でも医療大麻を購入できる。

カリフォルニア州で1999年に設立された医療大麻販売店「バークレー・ペイシャント・グループ」(以下、BPG)では10年くらい前から高齢者の顧客が増え始め、現在は過半数が55歳以上だ。販売ディレクターのビクター・ピンコさんによれば、高齢者は緑内障や関節炎、体の痛みや痙攣、胃腸障害などの治療に医療大麻を使用する人が多いという。特に緑内障は高齢者に起こりやすく、重症化すると失明の恐れがあるので、長期間使用している人が多い。大麻には眼圧の上昇や痛みを抑え、病気の進行を遅らせる効果があるという。

米国内で大麻を使用する高齢者が急増している状況はデータでも示されている。50~64歳の米国人で大麻を使用した人の割合は1985年の9%から2013年に45%と、なんと5倍に増えた。また、65歳以上でもこの間に6%から17%とほぼ3倍に増えている(2013年10月8日付のハフィントンポスト紙)。

60代や70代の高齢者の中には若い時は嗜好用大麻をよく吸ったが、その後仕事や家庭を持ったりするなかでだんだん吸わなくなった。でも、年をとってさまざまな病気や体調不良に苦しめられるようになり、医療大麻を使うようになったという人が少なくないようだ。

中には医療大麻のおかげで自殺を思い止まったという人もいる。ロサンゼルス郊外に住む75歳の女性は、重症の多発性硬化症でひどい吐き気に苦しめられた。いろいろと薬を試したがどれも効かず、生きているのが嫌になり、自殺を考えた。そこで知人に勧められて医療大麻を使用すると、吐き気がまったく起こらなくなった。食欲も出てよく食べられるようになり、体力も回復し、生きていることが楽しいと思えるようになったという。

彼女のようなケースは例外としても、多くの人が口をそろえるのは医療大麻のおかげで病気の症状が改善し、QOLが高まり、処方薬の服用量が減ったということだ。その点に関してはイスラエルの老人ホームの入居者の場合とよく似ている。