昨夏、観光地として名高い北海道の小樽運河を初めて訪れた。有名観光地というのは実際に訪ねてみるとガッカリすることもあるのだが、晴天に恵まれ川面は美しく光り輝き、街も賑やかであった。ここは誰もが行って損をすることのない名所だと思う。

聞くところによると、この運河は今の観光スポットという想定をして残存させたわけではなく、どうやら埋め立てるべきとの判断はしたものの、その資金がなくそのままにしておいたということらしい。何が奏功するかわからないものだ。

医療データについても小樽運河のような幸運にあずかれないだろうか。今や医療現場では紙媒体の資料からペーパーレスや業務効率化を動機として、その多くが電子化されている。しかしながら、こうした電子化データを2次的な目的で利用しようとすると、少なくとも医療データベース(DB)と呼べるほどに整備されているものは未だ数えるほどしかない。なぜならば医療データを電子化する際に、2次的な利用を想定していないのがほとんどだからだ。

いや、仮に2次的な利用を当初から想定したとしても、例えば電子カルテシステムの導入が始まった2000年代初頭では、個人情報の保護こそが最優先されていたので(これが間違った指針だとは言わないが)、医局内においてはデータの要約やグラフ化の機能があったとしても、患者さんが転院でもすればそれで情報は打ち切り。仮に転院していなくても同じ時期に別の病院で別の病気の治療をしていたら、その情報すらも電子上では不明、といったところだろう。これではせっかく多くの貴重な医療データが捨てられずにサーバーあるいはクラウド上に残存していたとしても、小樽運河のような価値を生むことは到底ありそうにない、そう思っていた。

ところが、ここにきて医療データの2次活用促進の動きは風雲急を告げている。より具体的には昨年4月の次世代医療基盤法の成立がそれであり、私のごく身近なところでは医薬品の製造販売後に行われる調査(PMS)に医療DBを使ってもよろしい、むしろ最優先で考えるべきという、本年4月から施行されるGPSP省令改正(医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令)などがそれである。

前者は認定された組織・団体ならば医療データと医療データを結びつけることができる。であるならば、後者が意図するファーマコビジランス(Pharmacovigilance、PV、医薬品の安全性監視活動)においては、例えば別の病院で処方された抗がん剤との飲み合わせによる重篤な副作用や、海外で訴訟のあったような、医薬品の投与後何年かたっての発がん性のリスクについても見つける、見破ることも可能になるかもしれない。有益な研究のチャンスはこれまでの何倍にも拡大し、今よりも遙かに多くの患者さんを救えることになるだろう。

さて、今回より始まるコラム「医療DATAコト始め」は、とにかく堅いこと抜きにして、これまで医療データの活用について縁遠かった人へ向け、興味を持っていただくきっかけづくりとして周辺事情などを紹介したいと思っている。

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想定している読者層は、
(1)医療データの2次利用は無理だと思うのだけど‥という人
(2)医療データを利用しようと思うけど、どう使ったらいいの‥という人
(3)医療DBを作ろうと思っているけど、どうしたらいいの‥という人
といったところだ。

とにかく「嫌いにならないで欲しい」という思いで、可能な限り毎回マンガなどを織り交ぜたいと思っている。医療に対し、仕事に対し、真摯に取り組んでいる方にとっては、面白おかしく演出することを不愉快に感じられる方もいらっしゃるかもしれないのだが、平にご容赦願いたいところである。

何より医療データ活用の裾野を広げたい。その一心であり他意はない。また、医療データのことをよくご存じの方にもぜひ読んでいただいて、私の認識の間違っているところや補足情報など、アドバイスくださればと思う。

医療データを持っているけど使い方に自信のない人と、医療データには触ったことがないけれどそれを上手に利用できるぞという人との橋渡しに、本コラムが貢献できれば何よりだ。

まるで縦の糸と横の糸を織りなすように‥そんな歌の一節が浮かぶ。歌手・中島みゆきさんは名曲「糸」の中で織りなす布が誰かの傷をかばうかもしれないと唄う。医療データの2次利用にはより多くの命や幸福に貢献できる、それだけの潜在力があるのだ。