■商用の医療DB

一覧表には医療DBを取り扱っている企業のものもいくつかある。私もこうした医療DBを取り扱ってきた企業との関わりは10年ほど前からあり、当時の担当者と「あの頃は今のような医療DB活用の隆盛は全く想像できなかったですね」と、当時を懐かしむこともある。株式上場以降、あっという間に東証一部にまで繰り上がったMDV(メディカル・データ・ビジョン)社とは、株式上場が嬉しくて一緒にお祝いもした。JMDC(日本医療データセンター)社とは、副作用の監視目的に特化したツールを一緒に開発させていただいた。スタートアップ企業が持つ、社会に対する問題意識とその解決のための情熱は私やプロジェクトに関わったメンバーにも伝播するもので、先に述べたMID-NETやNDBといった大規模なプロジェクトとはまた違った意味で医療DB活用をリードする、重要なプレイヤーである。

 ■その他の(一覧表以外の)医療DB

冒頭に触れた通り、日本薬剤疫学会の一覧表はあくまで「日本の」医療DBに限られている。我々も只今はIQVIA社(旧IMS社)を経由して利用可能な海外の医療DBを利用しているし、世界的に有名なCPRD(Clinical Practice Research Datalink)も利用している。目的にもよるが、海外の医療DBを利用した方が十分に該当する患者数を確保できるということもあるだろう。ただし、前回のコラムでも述べたが、リアルワールドデータは「クセがすごい」ので、その医療DBの成り立ちや異国の規制要件、文化慣習に精通している人が介在してくれないと大間違いな研究を行ったり、結果の解釈を間違えたりする恐れが大きいので注意が必要だ。

また、国内に目を向けてみると、各専門疾病領域が管理する病気の登録データ(疾患レジストリ)活用の動きが活発だ。医療DB活用の議論の中にあっても特に懸念の声が大きい、「医療DB内の病名は実際の病名とイコールとはいえない」、いわゆるレセプト病名問題は日本だけでなく世界中にあるが、シンプルに該当する病気が発生したらそれを登録するという仕組みは、病名の信ぴょう性という点においてアドバンテージがあり、いずれは医薬品の適応追加などに当たり前のように利用されるようになるだろうと思っている。

さらには、次世代医療基盤整備法施行以降の世界にあっては、例えば千年カルテプロジェクトと呼称する、医療DBを連結して利用できる仕組みの開発が進んでおり、来院前の情報や転院後の情報がわからない医療DB活用の限界からの脱却が期待される。幼少期の身体測定、健康診断から介護データに至るまでが1人の人間として繋がれば、どのような幼少期の過ごし方が健康に有益で、認知症を発生させないための生活はどうしたら良いか、様々なことが研究可能になるだろう。

おわりに

今回は「全部は紹介しきれないので‥」という意図も含みつつ、医療DBの数には際限がなくカウントは困難で、存在していてもアクセスができなかったりで数は数えられない。江戸時代の測量の話も巻き込みながら、今の日本の医療DBをいくつか紹介させていただいた。それにしても現代にあってなお伊能の功績には感心させられる。伊能の半生は事業者として大成功を収めた後に、測量事業の開始は50歳を過ぎてからだというからそれがまた驚きでもあり、この年齢になっても何ら功績を残せていない私にも勇気を与えてくれる。仕事で疲れたとき、私の中には引退して仕事をしない生活への妄想や憧れが渦巻くのだが、その一方で伊能の生き方にもまた魅せられてしまう。さて、何歳まで働こうか。