進む「幹細胞療法」と「組織工学的治療法」

再生医療は大きく「幹細胞療法(Stem Cell Therapy)」と、「組織工学的治療法(Tissue Enginieering)」の2つに分けられます。本望教授らによる神経再生や、川本所長らによる血管再生は幹細胞療法であり、黒田教授らによる骨再生や外園教授の角膜再生などは組織工学的治療法です。

 神経再生の研究の鍵は、神経細胞を再生医療に使うのではなく、神経にも分化できる造血幹細胞の中の間葉系幹細胞を使ったことと、それを脳内に移植するのではなく、静脈注射で血流に乗せたことです。具体的には、骨髄から間葉系幹細胞を分離し、それを増殖培養して静脈注射します。それにより、脳梗塞後の機能が回復、脊髄損傷患者の麻痺も劇的に改善することが示されました。これにより、昨年12月28日に、「ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞」を常駐する「ステラミック注」が承認されたのです。

 これは脊髄損傷の治療を目的とした再生医療関連の製品としては世界初の臨床導入です。実は、Natureでは臨床試験デザインや、臨床試験結果の透明性、臨床試験結果に対する科学的な疑問などについての批判がエディトリアルコメントに示されました。しかし、これは全く根拠がありません。前述した通り、先駆け審査指定を受ける際には、厳密な臨床試験デザインが課せられ、PMDAの助言指導のもと、厳格に治験を行っています。また、試験結果のデータについても、審査結果報告書にしっかり出してあります。

 幹細胞療法では、「Muse細胞」についても知っておく必要があります。Muse細胞は、2010年に東北大学の出澤真理教授らのグループにより発見された細胞で、骨髄や皮膚などに存在する細胞です。体内にMuse細胞を注入すると、傷ついた臓器に集まり、組織を修復します。ステラミック同様点滴投与なので体への負担が少なく、腫瘍形成の可能性も低いため、一つのMuse細胞製剤で多くの疾患に適用可能な点が大きなメリットです。

 同様に、川本所長らによるCD34陽性細胞による血管再生も、患者の血液から採取した細胞(単核球)を用います。これを重症下肢虚血の患者さんの下肢に筋肉注射すると、重症下肢虚血の離脱率が80%を超え、下肢切断のリスクが低下。現在治験が進んでおり、薬事承認を目指しています。

 一方、組織工学的治療法は、機能を失った臓器や組織の代替品を作り出す治療法。その分野で研究が進んでいるものの一つが、神戸大学の黒田教授の難治性骨折治療です。これは、CD34陽性細胞とアテロコラーゲンを混ぜて難治骨折部位に移植するもので、治療期間を大幅に短縮できます。医師主導型多施設共同治験が年内に終了する見込みで、結果に応じて薬事や先進医療申請を予定しています。

 また、京都府立医大の外園教授らの研究では、口腔粘膜上皮細胞を羊膜上で培養して作った培養口腔粘膜上皮シートを角膜に移植する「培養自家口腔粘膜シート移植術」を2014年1月~2017年3月まで先進医療として実施。2018年からは医師主導治験を開始しており、2020年3月に終了予定です。

求められる再生医療提供インフラの整備

 再生医療のイノベーションは、第二ラウンドに入りました。これまでの再生医療では、細胞のみ、あるいは細胞と足場としてのコラーゲンなどを使っていました。次の世代は、cell free 、CPC(細胞調整センター)freeの技術のフェーズに入るでしょう。

 また、再生医療はイノベーションからマーケティングのフェーズにも入りました。今後の高齢化社会においては要介護の人を少なくする必要があり、それには再生医療を迅速に普及させることが不可欠です。国をあげての戦略的な投資と、再生医療提供インフラの整備を進めてもらいたいと思います。