基調講演には、免疫チェックポイント阻害薬「PD-1阻害薬」の研究者として著名なノーベル生理学・医学賞受賞者である京都大学高等研究院特別教授、神戸医療産業都市推進機構理事長の本庶佑氏が登壇。21世紀医療フォーラムの設立当初から代表世話人統括を務め、常に医療革命の先端を見据えてきた本庶氏の講演をリポートする。


医療の新たな展開は、ライフサイエンスの進歩の後に起こります。

私が研究を始めた1970年代から2000年にかけては、ちょうどライフサイエンス革命ともいえる時期でした。DNAの二重らせん構造が解明され、それに基づく遺伝子コードが解明され、さらに、ヒトの全ゲノムの解読に至り、今やゲノムを自由に編集することさえできるようになったのです。

こうしたライフサイエンスの進歩は様々な医療に貢献することになりました。一方で、既知のライフサイエンスの知識は全体のわずか1000分の1、1万分の1に満たないでしょう。

医療が他の分野と異なる特徴は、命題解決のデザインをあらかじめすることができないことです。

例えば、「ロケットを打ち上げる」場合、その目標に向けた研究デザインをし、どこがテクノロジー開発のリミテーションであるのか、工学的、材料学的にどういった課題があるのかを明確にし、解明すれば、結果を得ることができます。

一方、医療における「がんを治す」という命題についてはどうでしょう。多くの人が研究デザインを試みましたが、うまくいきませんでした。それは、命題解決にはあらかじめデザインされていない「偶然の発見」が必要なことが多いからです。

ご存知の通り、がん免疫療法についても、偶然の発見が活路を開きました。1992年、T細胞の細胞死誘導時に発現が増強される遺伝子としてPD-1(Programmed cell death 1)が見つかりました。その後、1998年に作製されたPD-1欠損マウスによる研究で、PD-1が生体内で免疫反応を負に制御していることが明らかになり、世界に先駆けてPD-1抗体を用いたがん免疫療法を提唱、ヒトでも効果があることを確認できたわけです。

振り返れば、「感染症を治す」という命題においても、その突破口を開いたのは、ペニシリンの発見です。周知の通り、ペニシリンは極めて偶然発見されたのです。あらかじめデザインされてはいませんでした。

このように、ライフサイエンスというのは未熟な学問です。だからこそ、大きな視野を持ち、試行錯誤で研究を続けることが大切です。しかしながら、最近では多くの研究者が個別の遺伝子の企図などばかりに注目し、生理機能(physiclogy)全体を見ていないのではないかと憂慮しています。また、ヒトは、実験で使うネズミのように、純型ではありません。今後は個別化医療も大きな課題となるでしょう。