医療の現場では日々、膨大な医療情報が生まれています。こうした医学・医療のビッグデータを取り扱うことの難しさについては、皆さんも日々お感じになっておられるかと思います。今回は、さまざまな健康医療情報を有効利用するためのプラットフォームの構築が進んでいることや、データ利用のための課題について、私が考えていることをお話させていただきます。また、いま京都大学を中心に「ヒューマンデータ・サイエンティスト養成講座」の構想もあります。これについても説明させていただきます。

国民皆保険の日本に蓄積される膨大な医療情報

日々、臨床の場から発信される医療情報のなかで、もっとも身近な存在はレセプト(診療報酬明細書)でしょう。2009年に厚生労働省は「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、レセプト情報や特定健診・特定保健指導で得られた情報を管理する「レセプト情報・特定健診等情報データベース」(NDB)を構築しました。

この取り組みのポイントは、「国民皆保険制度」の元で1億人を超える規模の人口のほぼ全てのデータを含んでいるということです。世界の例を見ない有用性の高いデータベースとして政策立案に利用するだけでなく、研究者にも利用してもらおうと、2011年からは第三者提供が始まっています。

NDBに含まれる情報には、どのようなものがあるかというと、まずレセプトに記載されている主な項目は、医療機関コードのほか、傷病名、どんな検査や治療(投薬、注射、処置、手術など)を行っているのか、診療を何日行っているのかなどが含まれます。検査は、実施した検査の種類は分かりますが、検査結果までは記載されていません。

これに対して特定健診・特定保健指導情報では、受診者情報の一部(男女区分、郵便番号)や検診・問診結果(飲酒・喫煙などの生活習慣)、保健指導レベル、支援形態などまでが情報として格納されています。

NDBは、いろいろな政策立案に活用されています。例えば、難病に指定される患者の対象疾患や地域の拡大を検討するときに、どれだけの予算が必要となるか、どれぐらいの自己負担が可能なのかをNDBを使って試算し、合意形成に持っていくことができました。

多様なデータを連結してプラットフォーム化を実現

厚生労働省が医学・医療の発展のために、医療情報を第三者に提供している例は他にもあります。その一つがDPC(診断群分類別包括評価)のデータ。いわゆる急性期病院・特定機能病院などを中心に、DPC方式で請求された情報のうち、集計されたもののみが2017年から第三者提供を開始しています。

このほか、2018年からは「要介護認定情報・介護レセプト等情報」の第三者提供が開始されています。さらに「指定難病患者データ及び小児慢性特定疾患児童等データ」の第三者提供も検討されています。

これだけ多様な情報の利活用が可能になると、次に議論されているのは、複数のデータベースを連結し、プラットフォーム化していこうということです。全体をビッグデータとして分析可能にして産・学・官で利用可能な環境を提供する。そこからはレセプト分析には留まらない「重症化予防」「介護予防」など、幅広い領域に活用されることが期待されています。

じつは、様々な取り組みが既に始まっていて、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のMID-NET(医療情報データベース基盤整備事業)プロジェクトもその一つです。これは400万人規模のデータベースで、レセプト、DPCのデータに加え、検査結果なども利用可能です。平成30年度からは民間にもデータを公開するなど、今いろいろなところで蓄積されたデータを使っていこうという気運が盛り上がっているところです。