医療情報をきちんと管理する人材が求められている

これまで医療の現場から得られる情報を融合し、政策立案や産業化に役立てるためのプラットフォームを構築する動きについて紹介してきました。ただ、こうした情報は厳密に守られるべき個人情報であり、データの匿名化をきちんとし適切な管理を行うことが重要です。そのため2017年度に制定されたのが「次世代医療基盤法」です。医療情報のデータベースをしっかり作り、それを産業育成などに活用することを目的としています。

目的を達成するためには、医療情報をしっかりとマネジメントできる人材が必要です。例えば「第62回社会保障審議会医療部会」(2018年6月開催)では次のようなことが議論されました。

●医療情報の利活用により解決すべき研究の課題を適切に設定し、データ基盤構築人材と対話しつつ、適切に匿名加工医療情報を取得・分析できるようにする必要がある。

●このため、データ利活用基盤を構築・運営する能力や医療情報を利活用する能力を育成する取り組みを通して、わが国全体として必要とされる人材を計画的かつ確実に養成・確保する観点から、キャリアパスのあり方の検討、育成の場としての大学や認定匿名加工医療情報作成事業者、学会等の連携を含め、人材の育成を継続・充実させる。

なぜ医療情報の管理は難しいのか

こうした議論の背景には、なかなか人材が育たないという現状もあります。「それはなぜなのか」と思われる方も多いと思いますので、少し解説したいと思います。

まず、理由の一つには蓄積された情報の利活用の難しさがあります。例えば、レセプト情報というのは、医療機関が患者さんに対してこういう治療したから、これだけお金を請求しますというもの。いわゆる保険者からお金をもらう際に生まれる情報です。レセプト情報を集めて解析すれば、日本の医療の現状がはっきり見えてくると期待されますが、そうは簡単にいきません。

例えば、日本にどれぐらいがんの治療を受けている患者がいるのか。レセプト情報から算出された患者数は、厚生労働省などの患者調査における患者数を大幅に上回ってしまいます。臓器によっては2倍程度のこともあれば、3倍になっている場合もありバラバラです。

これでは「レセプトはあてにならないじゃないか」と思われるかもしれませんが、じつはレセプトの性質上仕方のないところもあるのです。レセプトは保険組合に診療費を請求するための情報であり、患者が受診した複数の病院で傷病名が少々ことなったりしても問題にはなりません。つまり、もともと疾病情報を精緻に収集する仕組みではないのです。

こうした情報を医学研究や政策立案に利用しようとすると、もっとも重要な病気の名前が信用できない「使いにくいな」ということになるわけです。これは日本だけの問題ではなく、どの国でもレセプト情報の精度の確保が課題とされています。

調査によって数値がバラバラな「糖尿病患者数」

このほかレセプト情報では患者のIDがライフイベントによって変わるという問題もあります。例えば、転職、定年退職によってIDが変わるほか、転居で国民健康保険が変わったりすることもあります。女性では結婚によって姓が変わります。ビッグデータの解析を予防医学に活用することも期待されますが、個人のデータを長期にわたって追跡することは難しいのです。

また、得られたデータの解釈によって結果に大きな差が出ることもあります。例えば糖尿病1つとっても、患者数は調査レポートによってバラバラです。ちょっと違うどころか316万人から1000万人と3倍違う。実は日本の糖尿病患者さんというのは誰もきちんとわかっていないのです。このようにデータの解釈の違いによって生まれる誤差は、さまざまな疾患の調査で見られることも分かっています。